軍人





『軍の狗』という言葉がある。
それは、国家錬金術師が持つ不名誉な二つ名だと言えるだろう。
では、その狗を繋いでいる軍部は、そこに所属している軍人は。
…まともな評価を得ているのだろうか。
「君はどう思う?」
「…唐突ですね」
ぱらぱらと書類をめくりながら、ロイをちらりと見てそう返す。
「唐突でもなんでも。君の率直な意見を聞かせてくれ」
きぃ、と軽く椅子を軋ませ、体ごとホークアイの方へ向ける。
「…少なくとも、この服を着て歩いていても石は投げられません」
「悲観的だな」
「客観的な意見を述べているんです」
言って、ファイルの端をクリップで止める。
「最終チェック終わりました。提出してきますが、よろしいですか?」
「あぁ、頼むよ」
だがその前に一つ。
そう言って、ロイは今まさに出ていこうとしていたホークアイを引き留めた。
「…まだ会話を続けるおつもりですか」
「賢い女性は好きだよ。…そう。軍人について、だ」
どん、と片肘をつき、その上にあごを乗せて皮肉めいた笑みを浮かべる。
「…さっきは悲観的だと言ったが、残念なことにその通りだ。その程度でしかない。…今は、な」
言って、ちらりとホークアイを見やる。
「…何が言いたいんですか。遠回しすぎて分かりません」
「ほう、分からない、と?」
くつくつ、とうってかわって楽しそうに笑いながら言うロイに、ホークアイはとうとう根負けした。
「…冗談です、分かっていますよ」
そう言って、手に持っていたファイルを持ち直す。
「…まさか、わざわざ言わせませんよね?」
「そこまで野暮じゃないさ。…引き留めて済まなかったね、その書類を頼むよ」
「はい」
ぱたん、と扉が閉まったのを見届けてから、ロイは組んでいた腕をとき、思いっきり伸びをした。
「…っと。さて、もうひとふんばりするかな」
そう呟き、目の前に積まれた書類へと手を伸ばす。




…彼の野望は、まだ遠い。




----------------------------------------------------------------
2004.6.13


BACK