スタアの恋



 

「有名人カップル」
そう言えば響きはいいけれど、要はスポーツ新聞やら週刊誌のネタになりやすいということでもある。
「今日が卒業式で、だからなんだっていうんだ」
げっそりとして呟いた快斗に、青子が苦笑して返す。
「仕方ないじゃない。もう制服デートはできませんね、って言われた時の返答は面白かったけど」
「ハハ…」
乾いた声で笑い、言葉を濁す。…いい加減疲れていたとはいえ、『コスプレならいつでも着てもらえるし』は言い過ぎたかも、と思う。確実に怒られてしまうだろう…に。
「ねえ、新聞見たよ?さん、映画決まったって」
「オゥ」
式が終わり、ざわざわした教室内でそれに反応して何人かが会話に参加してくる。
「あ、それ俺も知ってる!なぁ黒羽、サインもらってきてくれよ!」
「あ、俺も俺も!」
「オメーらなぁ、オレだって有名人なんだぞ!天才高校生マジシャン!」
憮然とした快斗の言葉にも動じることなく、話は共演者にまで及んでいた。
「…快斗」
そんなざわめきの中、青子がコソリと耳打ちする。
「帝丹高校も卒業式終わったって。友達から、連絡来た」
「…っし」
ガタン、と立ち上がり、時計に目をやる。どうせ式は終わったし、あとは適当に流れて解散だ。
「じゃーオレはお先に失礼」
「あ、おい黒羽!」
「またな!」
そう言ってひらひらと手を振ると、さっさと教室を出ていってしまった。
「…さんて、卒業したらすぐ撮影でロンドンでしょ?きっと別れを惜しみたいんだよね」
恵子の言葉に、青子が頷く。
「…まぁ、快斗もロンドンに留学するけどね」
「…………そうなんだ」
知れたらまた周りがうるさいからと内密にしているが、いずれバレてしまうだろう。そうなったら、平和な日本のことだ。すわネタだとロンドンまでも平気で飛んでいくだろう。
(…カメラが追いかけてこない、ほんの僅かな)
卒業し、次のステージに羽ばたく前の休息。そんな今という瞬間を逃すまいとする快斗を見送り、青子は携帯に目を落とした。
『今、行ったよ。見つけてあげてね』
…自分とが実は友人同士だということは、もう少し秘密にしておこう。





!」
「………ふふ」
はぁっ、と息をつき、微笑む。
「綺麗だな」
「…うん。今年、あったかかったからね」
桜を見上げて言ったに、快斗は黙って頷いた。…自分は桜を誉めたわけでは、ないのだけれど。
「天才高校生マジシャン」「演技もできる美人モデル」
そうして有名人カップルともてはやされる快斗とは、共に多忙でなかなかゆっくり会うことはできない。たまに会えると思いきや同じ記者会見場だったとか、そんなのばかりだ。
…けれど、今日は。
「座ろうぜ」
「うん」
去年の春に見つけた、秘密の穴場。卒業式が終わったらここで落ち合おうと決めたのが、ちょうど一年前だ。
「…卒業かぁ」
感慨深く言って、はコトン、と快斗の肩に首を預けた。
「…どうした?」
「ううん……」
新しい環境、新しい出会い。
漠然とした不安を抱くのは、誰もが同じで。それでも、
「…変わらないものだって、あるさ」
「………うん…」
ポンポン、と軽く頭を叩いてやると、満面の笑みでが返した。そうしてそのまま優しく頭を撫でてやると、やがて穏やかな寝息が聞こえてくる。
「………?」
「ん……」
もう少し、というように、快斗にすり寄る。その仕草が愛しくて、快斗は頬を緩めた。
(…こんなは、知らないだろ?)
たくさんのカメラマンが追ったって、決して撮れないショット。その穏やかな微笑みを守りたいと、その思いをまた新たにして。

「………。」

そっと落とされた口づけを見たのは、咲き始めの桜の花だけだった。




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