「竜崎、眠い。なんか話して」
「……私は眠くありません」
「私が眠いの。でも寝たらまずいからなんか話してー」
今日中にこの資料を整理してしまわないと、明日みんなに配ることができない。眠い目をこすってみても、効果は得られなかった。
「全く、手がかかりますね。…そうですね……」
いったんキーを叩く手を止めると、竜崎はふむ、と思案した。
「ではひとつ。私が英国にいたときのことです」
「英国…イギリス?」
「はい」
海外にはまだ行ったことがない。この時点で既に脳は覚醒した。身を乗り出して、先を促す。
「それで?」
「私は…道に迷っていました」
「は?」
「迷ったんです」
言い切った竜崎に、首を傾げながらも黙って聞く。
「すると……目の前に、お菓子の家が現れたんです……」
うっとりといた竜崎の目は、まるで目の前にそれがあるかのようだった。
「あのさあ…竜崎」
げんなりしてぼそりと言う。

「絶対ないよそんなの」

大体それは、どこぞの童話ではないのか。
「あったんです」
ぐりん、と首を回して、竜崎が繰り返す。
「……………マジ、で?」
その竜崎に圧倒されるように、ごくりとつばを飲み込む。
「嘘に決まってるじゃないですか。馬鹿ですね」
その一瞬後に繰り出された言葉に。
「〜〜〜〜〜竜崎ィィィイイィィッ!!!」
鉄拳が繰り出されたのは、言うまでもない。

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