街は馬鹿の一つ覚えみたいに、赤と緑オンリーの配色になっていく。 たまに白もまじえたり、トナカイ飛ばしてみたり、恰幅のいいおじいさんも飛ばしてみたりする。 (……いつからだろう) それらのものを見て、…心が浮き立たなくなってしまったのは。 クリスマスを楽しみにする理由が無い。 サンタが我が家をプレゼント配布区域外にしたのは、何年前だっただろう。 みんなで集まってどんちゃんしていたのは、いつのクリスマスだっただろう。 「…これは、私が枯れているんだろうか……」 街頭に立ってぼんやりと町並みを見つめながら、は小さくため息をついた。…片手に下げた袋には、買い物をと頼まれた大根とこんにゃくが入っている。(夕飯は鍋と見た。) …世の中がクリスマスに向かってヒートアップしていっているさまを、自分は完全に第三者の立場から見てしまっていた。つまり、そのテンションについていけなくなっていた。クリスマスイコールわくわく、という方程式がどうしても思い浮かばないのだ。 (…だって。何を楽しみにすればいいの) せいぜいいつもより豪華なご飯と、美味しいケーキを食べるくらい。そんなの、クリスマスじゃなくたっていつでもできるようなことなのに。 「…クーリスーマスが今年も、やってくる……」 気持ちだけでも盛り上がらないものかと、小さく口ずさんでみる。 …なんだか、虚しい気持ちになっただけだった。あーあ、マフラーしてくれば良かった、なんて思いながら首をすくめる。 「あれ、さん?」 そんなことをしていたら、不意に聞きなれた声に呼び止められた。聞きなれた、とはいっても、単に教室でよく聞くから、とかそんな程度だけれど。 「……白馬くんじゃん。どしたの?」 思考の続きで、(あ、マフラーあったかそう)なんて思いながら、きょとんとして返す。 「どしたの、って……僕が商店街にいるのは、おかしいですか?」 くす、と笑って返され、は肩をすくめて返した。 「おかしい、っていうか、イメージじゃないっていうか。商店街、っていうよりはデパート、って感じかな。」 「ははっ」 の答えがおかしかったのか、白馬が眉を下げて笑う。…そんな仕草を見たことがなくて、は思わず足を止めてしまった。 「? …どうか、しましたか?」 笑いの波がおさまったのか、白馬が尋ねる。 「あ……いや、ううん。なんでもない。」 そんな顔、初めて見たよ。なんだか可愛くて、見とれちゃった。 …などとは、言えなくて。 慌てて視線をそらしてしまった。不審かな、とは思いつつも、最早どうにもならない。 「……さんは、クリスマスが嫌いなんですか?」 「え、」 唐突に言われ、ばっと顔を上げる。…その瞬間、目があってしまった。 「……あ、」 「ごめん、別に深い意味はないんだけど。…ただ、街にはこんなに明かりが溢れているのに。さんは、それを見ようとしないでしょう?女の子なら、目を奪われても良さそうなものなのに」 「………ん、そうだね。」 白馬は、高校生探偵だという肩書きとはまた違った意味で。 観察眼が鋭いことを、は知っている。 彼の細かい気配りで、教室がつつがなく回っていることも、見ていたから。 (…あれ。なんで私、そんなに白馬くんのことを見てたんだろう。) そんなことを考えてから、白馬の問いに、まだ自分が答えていないことを思い出した。 「…なんだろーなー。別にクリスマスが、特別なものじゃないって言うか、…楽しみにする理由もないのに、心も浮き立たないって言うか。はは、枯れてるかな」 ……ゆっくりと、歩を止める。 いつの間にか商店街は終わり、暗い夜道が目の前に広がっている。 くるりと振り返れば、華やかなイルミネーションの眩しさが自分を見送っていた。 「…これが、答えかな。」 そうして、白馬を見上げて笑う。 そんなを見て、白馬が一瞬、虚を突かれたような表情でを見た。 「白馬、くん?」 「……いや、すみません。なんでもないんです。」 そんな顔、初めて見たよ。なんだか哀しくて、目が離せなくなってしまう。 …そんなことは、言えなくて。 言えなかったけれど、どうしても、そんな表情を、見ていたくなくて。 「…僕も、クリスマスに予定はないんですよ。」 そう言って、白馬が、自分の首に巻いていたマフラーをそっとの首に巻いた。 「せっかくだから、この街の明かりを楽しみませんか。さんが楽しめないのは、僕にとっても、哀しいですから。…このマフラーは、クリスマスに返して下さいね?」 「……、え?」 わけがわからずきょとん、としているに、にこりと微笑んで言う。 「来てくれるだけで…それを返してもらえるだけで、僕にとっては十分なクリスマスプレゼントですから。プレゼントとか、そういったことは気にしないで下さい。」 「はく、」 「約束しましたよ。だから、」 そんな顔をしないで。 「……………………っ!」 そっと頬に手を添えて言われ、の頬が朱に染まる。 「それじゃあまた、クリスマスに。」 に口を挟む隙を与えず、言うだけ言って、白馬がその場を去ってから。 「………ふし、ぎ。」 振り返って見た、街のイルミネーションは。 なんだかさっきと同じものとは思えないくらい、輝いて、綺麗に見えた。 ---------------------------------------------------------------- BACK |