どっちもどっち。





「じゃーん!」
「…ん?」
の差し出したものを見て、快斗は眉をひそめた。
「じゃーんって…これ、ただの携帯だろ?」
そう。が差し出したのは、まさにただの携帯だった。…最新より三機種ほど古かったが。
「…そうだけどっ!やっと買ってもらったの!持ってないの私くらいだったでしょ?だから嬉しくって」
るんるん、と鼻歌を歌っているの手から、快斗はひょいと携帯を取り上げた。
「ちょっ!?なにす…」
「…色はムーンシルバーか。ちょっと古いヤツだな…お?ロックされてやがる」
「返してよー!プライドの侵害だよ!?」
「それを言うならプライバシーだろ」
ひょいひょいとの手を逃れ、快斗は携帯を指さして聞いた。
「なあ、中見てもいいか?」
「ご自由にっ。どうせロックされてるから見られないけどね」
言うが早いか、快斗はすごい早さでボタンを押し始めた。

ピッピッピッピッ、ピーッ

ピッピッピッピッ、ピーッ

ピッピッピッピッ、ピーッ

ピッピッピッピッ、ピーッ

「…あのー、快斗くん?つかぬことをお伺いしますが、どんな数字入れてるんですか?」
おそるおそる聞いたに、快斗はその間も手を休めることなく、空いた手で指折り数えつつ答える。
「んー?生年月日、電話番号、番地、生徒番号、レンタルビデオ屋の会員番号、  の両親の結婚記念日、保険証番号に…」
「ちょっと待ったー!!」
その快斗のせりふに、は携帯をひったくるようにして取り上げた。
「なんであんたがそんなことまで知ってんの!?もうだめ、没収っ!」
「えー?」
…まあ、相手は快斗だ。それくらいは知っていても不思議はない…そう思ってしまうあたり、なんだかもう諦めている自分に泣きたくなってくる。
「じゃー、ラストチャンス!な?いいだろ?」
「…これで最後だからね!」
ばれない自信は、ある。というか、ばれたらどうしようもなく恥ずかし…

ピッピッピッピッ……ピビッ

「「…あ。」」
先ほどとは違う…解除成功の、音。
「……」
「その携帯あげます。もういいです。すみませんさようなら」
「待てって!」
捕まれた腕をふりほどき、は教室を飛び出した。
「うわーんバカー!快斗のうぬぼれやー!!」
ぴしゃんっ!
を追いかけ、閉まったドアに盛大に鼻をぶつけて快斗はしゃがみこんだ。
「…っててて」
手に持ったままの携帯を見て、痛さも忘れて思わず笑みがこぼれる。
ロックナンバーは…1412。
そう、怪盗1412号…“KID”そう呼ばれる前の、名前だった。
「うぬぼれたくもなるさ…」
わざわざ、最新機種ではなく、少し古い型にした理由。
なあ、それって…





「…ムーンシルバーとキッドをかけてる…なんて、気づいてないよね…?」
隣の空き教室で、は小さく呟いた。
ああ見せなければ良かった…頭を抱えたくなったが、時既に遅し。
うぬぼれやさんが、満面の笑みで扉を開けるまで…あと五秒。




2004.8.14


----------------------------------------------------

藍李花音さん、リクエストありがとうございました!!
ちなみに管理人の携帯がムーンシルバーですが、キッドにかけたなんて
かわいいもんではなくお金がなくて最新にできなかっただけです。
あ、怪盗1412号を最初にKIDと読んだのは優作パパなんですよー。


BACK