そもそも学生である以上、“それ”があるのはもはや必然であり、そしてまた同じくらい、“それ”を嫌うのも必然であったりするのだ。 (…私の周りの人たちって、なんだかんだでそつなくこなすよなぁ) 図書室で一人教科書を広げ、は深く深く息をついた。 …中間試験が、目の前に迫っていた。 「あれ?ちゃん。突然どうしたの?」 「あはは、ちょっと相談が…というかお願いが…」 青子の教室の前で、はこそこそと話していた。自分のクラスからは二クラス分離れているが、用心に越したことはない。 「あのね…私の周りって、なんていうかこう…“そうは見えないのにデキる人たち”の集まりっていうか。それで…その…なんか、やりにくいんだ。でも一人だと進まないし…青子ちゃん、一緒に勉強してもらっていい…?」 それを聞くと、青子はにっと笑って言った。 「もっちろん!」 「…ありがとう!」 ほっとして、はへにゃりと笑った。青子は結構デキると和葉が言っていたし、強力な味方を手に入れたと考えていいだろう。 「じゃあ早速なんだけど…」 「え?」 今は昼休みだ。放課後からかと思っていたが、今から始めるのだろうか。 「秘密の裏庭へれっつごー!」 「ひみ…え、ええっ!?」 何が何だかさっぱりわからないまま、は青子に引きずられるようにして裏庭まで行ったのだった。 「あ…青子ちゃん?」 「んっふっふ。実は、快斗のことなんだけど…」 「快斗?」 あまりにも唐突にでてきた名前に、きょとんとする。…快斗が、どうしたというのだろう。 「ちゃん、快斗のことあんまり知らないでしょ?だから、色々教えてあげようと思って!」 「ちょっ…ちょっと待って、なんで私に快斗のこと教えるの?」 「それは……」 そこまで言いかけて、青子は口ごもった。 「青子が…快斗の、幼なじみだからかな」 力になれることはしてあげたい、って思うんだ。 (ドクン……) 心臓が、締め付けられているような。なんともいえない苦しさが、不意にを襲った。 「あ…あのさ…、」 「ん?」 そうして、考える間もなく、するりと口をついて出てしまった疑問。 「青子ちゃんっ…て、さ、快斗のこと…好きなの…?」 「………へ?」 「あ…」 口にしてしまってから、ばっと手で覆ってももう遅い。私は…私は、今何と言った? 「ごっ…ごめん!なんか私、今おかしなこと言った!!」 ばばばと手を振っても、火照った顔から熱は引かない。一体、自分はどうしたというのだろう? 「ちゃん…」 「え?」 「かわいいっ!!」 がばちょっ、といきなり抱きつかれ、はバランスを崩してひっくり返った。 「え?へ?な…?」 「超かわいいっ!も〜、もったいない!青子がもらっちゃう!」 「ちょっ、青子ちゃん…青子!?何が何だか…」 芝生の上に転がったまま、疑問符を浮かべまくるに、青子は身を起こしてを引き起こして言った。 「ううん、こっちの話。気にしないで。それと、青子はちゃんが思ってるようなことないから」 だから大丈夫だよ。 そう言って青子がにっと笑うと、は不思議と救われた気がした。…裏表のない、青子の笑顔に。 (だけど…) 自分で自分に説明のできない感情。その感情が一瞬、自分の中のすべてを覆った気がする。…決して、きれいではない、何か。 ……私、なんか変だ。どうしたんだろう。 「それで、ここんとこにxを代入すると、こっちの2yが…」 「ふむふむ」 「あ、ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね!休憩してて〜」 「ふぁーい」 ぐっ、と伸びをして、立ち上がる。体中の骨がぽきぽき鳴っていた。 (誕生日・嫌いなもの・得意なもの…) 青子が教えてくれることはすべてが知らないことばかりで。私ばっかりこんなに快斗のこと知っていいのかな、って言ったら「あいつは自力でもっと色々入手してるから、青子がフェアにしてあげてるの」と返された。よくわからないが、負い目を感じる必要はないらしい。 「…新聞でも読んでようかなあ」 一面に踊る記事は、怪盗キッドのもの。そういえば昨日は予告日だったっけ、と思い返しながら、他に一面を飾る記事がない日本は平和だなあ、なんて思う。 「………あ、れ?」 この宝石、どこかで見たことある気がする。 キッドの横に並べてある宝石の写真を見て、ふとひっかかるものを感じる。最近、見たばかりのような…どこだっけ…?確か、図書室で………本…? 「ちゃん!」 「あ、青子…」 ぱさ、と新聞を戻し、青子と共に席に戻る。…それっきり、宝石のことはすとんと抜け落ちて忘れてしまった。 「さっきの続きなんだけど…」 「うん!」 …が“それ”を知るのは、もう少し先の話。 ---------------------------------------------------------------- BACK |