始業前





「今日は間に合うと思うな。間に合うに一票」
「甘いな…絶対間に合わないって。間に合わないに一票」
「ほんならオレも、間に合わないに一票」
「えー!!」





キーンコーンカーンコーン…

キーンコーンカーンコーン…

「…間に合わなかったぁ…」
悔しそうに言うに、新一はにっと笑って言った。
「な?間に合わなかっただろ?」
「またオレらの勝ちやな!」
そう言って嬉しそうに笑ったのは平次。二人を交互に見たあとで、ははぁ、と溜め息をついた。
「はいはい、三連敗ね。私の負け!」
「なんの話してるの?」
「勝ったって、なにが?」
そこに顔を出したのは、新一の幼馴染みの毛利蘭と平次の幼馴染みの遠山和葉だった。悔しそうにしているを見て、何があったのかと心配しているらしい。
「蘭〜!和葉〜!」
泣き付くを見て、新一が苦笑しながら説明してやる。
「オレと服部とで賭けてたんだよ、今日あいつが遅刻するかしないか」
それを継いで、平次が続ける。
「今日では三連敗。昼飯一回オゴリや!」
「わかったってばー!」
…五月半ば。
クラスのムードも次第にまとまり始め、それぞれのカラーもなんとはなしに決まり始める。
“B組きってのトラブルメーカー”であり、“ムードメーカー”でもあり、そして…
「遅刻したーっ!!」
…彼は、遅刻常習犯でもあった。
「ばかー!!黒羽くんの馬鹿!いーや、あなたに期待した私が馬鹿だったっ!」
びしっ、とに指差され、快斗は思わずその場で固まった。
「…へ?」
「あ、でもほら、まだ先生来てないから、ぎりぎりセーフっていえばセーフじゃない?」
がくるりと振り返り、そう言って新一に「ね?」と問掛ける。
「…屁理屈だな…ったく、しゃーねーな」
「やれやれ、昼飯はお預けやな」
一人事情が飲み込めずに、疑問符を浮かべ立ち尽くしていた快斗の頭を、出席簿がピシャリと叩いた。
「ほら、席につけ」
「いってー!」
ぶつぶつ言いながら、仕方なく自席に向かう。
「なぁ…なんの話?」
どさっ、と快斗が席に座り、横にいる蘭にひそひそと話しかけた。
「あぁ…なんかね、黒羽くんが遅刻するかしないか、賭けてたみたい」
「…へー…」
ちらり、と斜め後ろに目線をやると、とぱちりと目が合った。
(べー!)
(…にゃろォ…)
勝手に賭けたんだろーが、と文句を言いたかったが、今はHR中。
喋っていてチョークを投げつけられたのは、まだ記憶に新しい出来事だ。
快斗は前に向き直ると、正面に見える新一と、その更に前に見える平次の背中を睨みつけた。
(…この二人…いつのまにとそんなに仲良くなったんだ…?)
ムカムカする。
おもしろくなさそうに眉を寄せ、「ケッ」と悪態をついてそっぽを向いた。
(…勝手に賭けられたとはいえ…その挑戦、のってやるぜ!)
…このまま引き下がるわけにはいかない。持ち前の負けず嫌いに火がつき、快斗は闘志を燃やした。
…そして、翌日の遅刻を防ぐため――つまりは寝坊を防ぐために――六時間の授業をぶっ続けで眠ったのだった。





「おっはよー♪」
「うそ!?」
「またオレらの勝ちやな!」
機嫌良く教室の扉を開けた快斗を出迎えたのは、笑顔の新一と平次、呆気にとられた表情のだった。
「な…な…なんで遅刻しないのー!?」
「…え゛」
「おめーは読みが甘いんだよ」
新一が得意そうに言って、の肩をポンと叩く。
「昼飯、よろしくな♪」
「……はい」
沈欝な表情のを見て、快斗は首を傾げる。
「…へ?え?あれ?」
オレ、を喜ばせたいんじゃなかったっけ…?
…結局今日も、快斗は朝から怒鳴られる羽目になったのだった。




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