散歩





なんとなく、特に深い意味は無く。
せっかくの休みだし、とフラリとロイは街へ繰り出した。
(……あ)
コーヒーでも、と喫茶店の扉を開けようとした、まさにその時。
路地を曲がっていく、小さな金髪が目に入った。
金髪なんて珍しくない髪色だが、頭で考えるより先に体が動いていた。
「…おーい、……えーと」
名前がわからないのだから、呼びようがない。
仕方なく、ロイは急ぎ足で路地を曲がると金色を探した。
「こんにちは、軍のお兄ちゃん」
「…やっぱり君だったんだ」
探すまでも無く、すぐ横手から声をかけられ、にこりと笑って応じる。
なんとなく、このこにはまた会いたかった。
「ねえ、名前を教えてくれないかな」
どこへ向かっているのかわからないが、いきなりすたすたと歩き出した少女のあとを
追いながら、少女に話し掛ける。
「だめ」
「…へ?」
あっさりと返ってきた拒否の返事に、ロイはきょとんとした。
「…どうして?」
「知らない人に名前言っちゃいけないから」
つん、と澄まして言われ、ロイは苦笑した。
なかなかどうして、一人前のレディーだ。
「じゃあ、とりあえず俺の名前だけでも。ロイ、ロイ・マスタングだよ」
「…ロイ」
「そう、ロイ」
それっきり、そのまましばし無言で歩き続けると、急に目の前が開けた。
「…うわぁ」
「着いたよ、ロイ」
にっこりと。
少女は笑ってそう言うと、満足そうにロイを見た。
一面に咲き乱れる、淡いピンク色の花。
名前は知らないが、本当に綺麗だった。
「これを俺に見せるために?」
「うん」
そう言うと、たたたたたっと走って花畑へと飛び込んだ。
「ロイも早く!」
「…え、俺も?」
さすがに少しためらっていると、少女が手をメガホンにして叫んだ。
「七枚の花びらの花を探すの!」
「七枚…?」
足元を見やれば、どの花も花びらは六枚。
七枚の花びらの花というのは、いわゆる四葉のクローバーのようなものなのだろうか。
「わかった、わかったよ」
花畑へと入り、ロイも少女とともに花を探し始めた。





「あった!」
「おっ、やったな」
少女の手元を覗き込めば、確かにそこにあるのは七枚の花びらの、花。
それを根元からそっと摘み取ると、大切そうに胸元へと持っていく。
「これね、願いが叶うって言われているの」
「へえ?どんな願いを懸けるんだい」
幼い子供のことだ。
深い考えもないだろうが…。
「ロイの」
「え?」
「ロイの、願いが叶いますように」
…これは、予想外だ。
虚を突かれ、呆けているロイの手にそっと自分の手に添えて花を包み込む。
「ロイが、シンネンを貫けますように。あと、私も、ロイの…」
だがしかし、そこで少女は唐突に黙り込んだ。
「…俺の、何?」
「やっぱり秘密。」
そう言って、小さく微笑む。…つくづく、不思議な少女だ。
(なんだか…)
ふわり、とした空気が流れていて。
ロイも、花畑の中で少女に向かって優しく微笑みかけた。



…今日の散歩は、とても有意義なものになった、と言えそうだ。




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2004.8.14


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