手紙





<31.手料理の続きになっています。>


「あー…いや、違うかな…」
休息をとるための食堂で、うんうん唸りながら何かを書き続けているロイを見て、ハボックが怪訝そうに眉を寄せた。
「…何してるんスか」
「うおぅ!?」
かなり派手なリアクションでのけぞったロイは、心底驚いた顔をしていた。
「…あの、俺すぐそばにいたんスけど。もしかして気付いてなかったんスか?」
「…あ、あぁ。何か用か?」
ものすごく不自然に机の上の紙片を片付け、わたわたとロイが聞いてくる。
(これは…)
にやり、と。まるで新しいおもちゃを見付けた子供のように、ハボックは楽しそうな笑みを浮かべた。
「ラブレター?」
ずがしゃっ!
ロイは椅子ごとまともにひっくりこけた。
「ハ、ハ、ハボック少尉!用がないならさっさと戻れ!」
「へいへい」
残念そうに溜め息をつき、ハボックは食堂を後にした。





「うーん…大体手紙というものにあまり縁がないからな…“本日はお日柄も良く”…結婚式のスピーチか。“ごきげんよう、ロイ・マスタングだ”…誰だこれは。」
何枚目になるのか分からない紙屑を、ゴミ箱に向けて放り投げる。角に当たって床に落ちたそれは、ちょうど部屋に入ってきた人物の足元まで転がり、止まった。
「…大佐?」
「中尉…」
唖然としているロイを見て、ホークアイは言葉を続ける。
「何度もノックしたのですが。余程職務に集中されていたんですね」
「あ、いや…」
「? 違うんですか」
怪訝そうに問うホークアイから慌てて目をそらし、ロイは平静を装った。
「…で、何か用か?」
「はい。実は先日、ベント…」
「わー!!」
突然叫んだロイに、ホークアイは目を丸くした。
「…何なんですか」
なかば呆れ、ホークアイは溜め息をつきながら言った。
「いや…その、なんだ、弁と…」
「ベントルーニャがなにか?」
ベントルーニャ。やっと地図に名前が載るような、至極小さな農村である。
「…すまない。先を続けてくれ」
「はい。ベントルーニャで起きた爆破事件ですか、調査の結果、消し忘れた煙草の火が引火性の強い物質に触れ、爆破したものだったようです」
「そうか」
「そうか、って…それだけですか?この事件は、大佐が『何か大きな事件と関わりがないか調べてほしい』って言うから詳しく調べていたんですよ?」
呆れや怒りを通り越し、何があったのかと心配を始めたホークアイを見て、ロイは観念した。
やはり、最初から自分には向いていなかったのだ。
「…この前、私に弁当をくれただろう」
「はい」
「そのお礼がまだだったからな。手紙にしたためて渡そうと思っていたのだよ」
「…は?」
呆れ・驚き・疑問…それら全てが凝縮された表情で、ホークアイはなんとか言葉を発した。
「…挙動不審が続いていたのは…」
「見付かりたくなかったからだ」
「…大佐、お気持ちだけで十分ですから。もう本当、可能な限り可急的速やかに職務に戻ってください…」
がっくりと肩を落とすホークアイに向け、ロイは右手を突き出す。
「これは?」
「今までで一番良く書けたものだ。せっかくだから受取りたまえ」
無駄に偉そうにしながら、ロイはふんぞり返って言った。
「はぁ…ありがとうございます」
わははと笑いながら去っていくロイを見送ってから、ホークアイは手紙に目をやる。
『親愛なる、ホークアイ中尉へ…』




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2004.3.19


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