今の季節は、何がいいんだろう。
なんだかすっかり季節感がなくなって、どの季節でも大抵の花は揃ってしまう。
花屋の前で快斗が固まっていると、店員から「お悩みですか?」と、声をかけられた。10分もそうして固まっていれば、当然だろう。
「んー…花束を贈りたいんですけど。今の季節らしくて、可愛らしい感じ。オススメありますか?」
相当アバウトな快斗の注文に文句をつけることもなく、店員がふむ、と思案した。
「…トルコキキョウ、とかどうですかね」
「トルコキキョウ?」
頭の中に浮かんだのは、トルコキキョウに関する情報だ。
(竜胆科…学名はEustoma grandiflorum。アメリカのテキサス州原産で、由来は花のひらいた形がトルコ人の巻くターバンに似てているところから…)
つくづく、自分が持っている知識は肝心なときに役立たない。もっと決め手になるような何かは、ないのだろうか。
そんな快斗を見て、店員がくすりと笑う。
「お悩みですね。トルコキキョウの、すっと伸びた茎に咲く花は暑さにも強くて、日持ちしますよ。花言葉は…」
すとん、と。
まるでそこに納まると決めていたかのように、その言葉が快斗の中へと落ちてきた。
「…トルコキキョウで、お願いしていいですか?」
「かしこまりました。ありがとうございます」
白、ピンク、紫。
様々な色の花が、まるで魔法のようにまとめられていく。
こうして何かがつくられてゆく過程というのは、見ていて楽しい。
(…あいつ。)
心に浮かぶのは。
(喜んで、くれるかな。)
思い描くのは。
「……お待たせしました!」
少しはにかみながら、その花束を受け取って。
快斗は、足取り軽く店を後にした。





!」
ばたん、と。
やけに勢いよく開いた扉に、が飛び上がった。
「ちょ、快斗!?どうし……」
「3周年っ!」
が言葉を続けるより早く、快斗が目の前に花束を差し出す。
「……ありがとう、。これからもよろしくな。」
「かい、……と…」
花束を抱きしめ、満面の笑みを浮かべて。
「ありがとうっ…!」
「うわ、花!つぶれる!」
「ああっ、ごめん、ごめんね!!」
花束を抱きしめたまま飛びついてきたを、慌てて抱き上げる。
「…うわあ、お姫様抱っこだ」
は軽いから、ヨユー」
「よく言う」
実は必死なんでしょ、なんて笑いながら言われて、快斗も笑い返して。

そのまま、キスをした。

…不意に降ってきて、すっと離れたそれに驚くことなく、が嬉しそうに笑う。
「キザ」
「知ってる」
を抱き上げたまま、ソファへと座り込んで。

また、ひとつ。

「…ご飯、まだでしょ」
「あとでいいよ」
「お花、花瓶に入れなきゃ」
「少しは水はいってるってば」
「………。」
「いい?」
「……………だめ、って言ったら?」
「言わせない」

言って、もうひとつ。

トルコキキョウの花束が、ゆっくりとテーブルの上に置かれて。
…優しい色が、ふわりと広がった。
「好きだよ、快斗」
また知ってる、っていうんでしょ、と続けたに、黙って首を振って。
「オレも好きだよ、
そう返して、微笑った。

……優美で、清々しい美しさ。

本当ににぴったりだ、なんて思いながら。





3rd Anniversary


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精一杯のお祝いと、精一杯の愛を込めて。
ムツミさん、3周年本当におめでとうございます!

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