半分こ。





「アルゥウゥ!!それを寄越せぇえ!!」
「駄目だよ兄さん!これは渡すわけにはいかない!」
「…何をやっているんだ、鋼の」
「あ、大佐…それに中尉」
日中の町中である。呆れ顔で眺めているロイを見て、エドは頬を膨らませた。
「聞いてくれよ大佐!アルってば、俺が最後のひとつとして大事にとっといたぴよこまんじゅうを…!」
「兄さん最近甘いもの食べ過ぎなんだよ!このままじゃ横に成長するんじゃないか、っていう弟の心配を!」
放っておいたら、永遠に続きそうなやりとりを見て、ロイは溜め息をついた。この兄弟がまだ子供である、ということを改めて認識する瞬間だ。
「そんなだから兄さんはいつまでたっても小さいんだ!!」
「誰が豆つぶみじんこドちびかーっ!!」
「…中尉。どうしたもんかな」
別に放置しておいて害になるものでもない。見なかったことにして立ち去るのもありだろう。
「さぁ…別に放置しておいて害になるものでもないですし、見なかったことにして立ち去ってしまってもいいんじゃないですか?」
「そうだな」
全くの同意見だったことに気を良くし、くるりと背を向けた。
「あぁっ大佐!待ってよ見なかったことにしないで!」
「をうっ」
後ろから、アルに首ねっこを掴まれる。
「ほら兄さんも、いつまでもダダこねてないで!大佐、これあげますから。それじゃ!」
「は」
ぽんっ、とロイの左手の上に、騒動――という程のものではないが――の原因となったぴよこまんじゅうを乗せ、アルはエドを小脇に抱えてがっちゃがっちゃと走り出した。
「あぁっ!待てこら!ぴよこまんじゅうぅぅぅ〜…」
エドの叫びがいつまでも聞こえていたが、やがてそれも消える。
後には呆気にとられたロイと、いつもと変わらないホークアイが残された。
「…一体なんだったんだ、あれは」
「…答えかねます」
そして、手の上に視線をやる。
そこには、アルが残していったぴよこまんじゅうがちょこんと乗っていた。
「どうしたもんかな、これ」
「お食べになられては?」
「それじゃあ」
そう言い、口に運ぼうとしたところでふと視線を感じた。
「…中尉」
「はい」
「食べたいのならそう言いたまえ」
「とんでもありません」
言って、ついと視線をそらす。
「…じゃあ」
再び口に運ぼうとしたところで、またも視線を感じた。
「あのなぁ…中尉…」
「はい」
ここで先ほどと同じ問い方をしても、またかわされるだけだろう。だが、自分が食べる間ずっと見られているというのもあまり気分の良いものではない。
「よし、こうしよう」
言うとロイは、まんじゅうを綺麗にふたつに割った。
「半分こだ、中尉」
言って、片割れを渡す。
「半分こ…ですか?」
「そうだ」
ホークアイは、微かに―ロイにも分からないほど微かに―微笑み、礼を言った。
「ありがとうございます」
「いや、なに。しかし君が甘いものが好きだとは知らなかったな」
「あ、いえ…」
そこまで言いかけ、ホークアイは口をつぐんだ。
「すみません。やることを思い出したので、先に帰らせて頂きますね」
「? あぁ」
急に踵を返したホークアイに疑問を感じつつ、ロイはぴよこまんじゅうを口に放り込んだ。





「はいはい。全く、甘いものが好きな犬なんて…」
足元に擦り寄ってくるブラックハヤテ号を見て、ホークアイは溜め息をついた。体に良くないことは分かっている。だからたまにしかあげないのだ。
「あなたにあげたいと思いながら見てたら、大佐がくれたのよ。ほら、今あげるから…」
まんじゅうを皿の上に置こうとして、ホークアイはふと手を止めた。
(半分こだ、中尉)
「…ブラックハヤテ号…ね、これ、半分こにしていい?」
私にも半分ちょうだい、言うと、わん!と快く承知してくれた。
(ありがとうございます、大佐)
まんじゅうを口に運びながら。
不思議に満ち足りた気持ちになりながら、ホークアイは心の中で礼を言った。




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2004.3.22


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