兵器・平気





いくら経験を積んだところで、決して慣れるようなものではなくて。
引き金を引いた手を、ゆっくりと開いては閉じ、開いては閉じ、を繰り返す。感触を確かめているようでいて、早く忘れようとしているようでもいて。
…早く行かなければ、上官に叱られてしまう。
「よっ、と…」
「ねえ」
座っていた石から立ち上がると、ふいに後ろから声を掛けられて慌てて振り返った。
「ねえ、お兄ちゃん」
「おにい…?」
金髪に、深く淡いブラウンの瞳。
自分より、五つほど年下だろうか。十歳くらいに見える。
果たして自分にこんな妹はいただろうか、と真剣に考えかけてから、これくらいの年の子には、自分ぐらいの男の子はみんなお兄ちゃんなのだ、と気が付いた。
「…なに、かな?」
すとん、と腰を下ろして目線を合わせると、その少女はきゅっ、と唇を真一文字に結び、ぽつりと呟いた。
「ヘイキ、ヘイキなの?」
「…え?」
「兵器・平気なの?」
音が同じで殺那混乱したが、二度聞いてようやくわかった。

“兵器 平気なの ?”

自分に、そう聞いたのだ。
「…なんで、そんなこと聞くんだい?」
「だって…いっぱい、撃ったでしょ?」

イッパイ、撃ッタ

(このこ、まさか見て…?)
さきほどの、あれを?
「ねえ、君は、一体…」
「どうして?」
ロイの問掛けなど、聞こえてもいないらしい。
ただ、単純に。
素直に、疑問をぶつけてくる。
「それは…」
小さな子供だ。
舌先三寸でなんとでも丸め込めることができる。…だが、何故か。
真摯に応えたいと、そう思ったのだ。
「…信念が、あるからだよ」
「…シンネン?」
「そう。曲げられない、譲れないものだ。兵器を使うことは、決して平気じゃない。だけど、信念があるから可能なんだよ」
「マスタング!何をしてるんだ、早く来い!」
「あ、はい!」
上官命令は絶対だ。急いで行かなければ。
「ねえ、お兄ちゃん」
「うん?」
振り返ると、小さな笑顔。
「また、ね」
「…うん」
確証はないけれど、なんとなくまた会いそうな、会えそうな。
そんな気がして、ロイも素直に頷いた。



(ああ、名前を聞くのを忘れたな)
今度会ったときに聞けばいいか。
ロイはそのまま、上官のもとへと戻っていった。




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2004.8.5


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