「はーいやり直し」
「……先生、思うんですが、正直これは高校生のレベルを逸脱しているのではないかと」
「期待を担っていると言え、エース」
「はは……」
……某国の大使が、校長と縁深いということで急に決まった青山学園への訪問。しかも「我が校は英語教育に力を入れている」アピールとして、何故かがその大使を校内案内することになったのだ。
「大体、なんで私なんですか?」
「オレがもってる生徒で一番優秀なのがオメーだ」
「…………。」
ハニワ顔になりつつ、再び目の前のプリントとにらめっこをする。ごく簡単なものからどう考えても大学生レベルまで、様々な場面での英会話が並べられている。
「…なんか、どうせこんなことしても無駄な気もしてきました」
「そりゃまたなんで」
「あの校長のご友人ですよ。まともなわけがないです。絶対意味不明で無理難題な会話ばかりふっかけてきますよ」
「うーん…」
朝礼の挨拶でマジックを披露するような人物だ。の言にも一理ある。……ある、が。
「まぁ備え在れば憂い無しだ。とりあえずやっとけ。で、いざとなったら神頼みだ」
「神頼みって……何の神様に」
どの神に頼めばいいんだろう。金髪碧眼のイケメン神様を思い浮かべつつ、投げやりに言う。
「英会話の神くらいいるだろ。なにせ、」
とん、と机に手を突き、の目線にあわせてにやりと笑って言う。

「八百万の神がいるって言うしさ?」

「…やおよろず……。」
「とりあえず神頼みしときゃ、どっかの神様が聞いてくれるだろ」
「…居残り授業の神サマもいるんですかね」
「いるいる」
「軽いなー」
くすりと笑いつつ、くるくるとペン先を回す。
別に信仰している宗教はないが、なんだか気持ちは軽くなった。困った時には神頼み、それも悪くないかもしれない。
「じゃー神サマにお任せってことで、私もそろそろ帰宅を」
「だめだ。答えが出るまでは帰さないから、よく考えろ」
ふ、と。
瞬間、真面目になった新一の表情に、はドキンと心臓が跳ねるのを感じた。
「……どうした?」
「あ、いえ…別に、どうも。」
子供のようなことをいったかと思えば、不意に大人の表情を見せたりもする。
振り回されてるなあ、と思いながら、視線をノートの上へ戻した。
(…えーと、that…)
思考の海へと沈んでゆくを見ながら、新一はそっと微笑を浮かべた。
…大丈夫だろ、コイツなら。


夕闇迫る教室に、二人の長い影が伸びていた。



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