「海に行きたい」
「…は?」
「だからね、海に行きたいって言ったの」
そう言うと、は机にべったりと突っ伏した。
「…夕日に向かってバカヤローと叫びたい…」
「それ実際にやったらかなり寒いと思うぞ」
そう言って、快斗はばさりと新聞を広げた。
…一面に踊るは、眼鏡の少年の写真。そして『怪盗キッドキラー』の文字。それをおもしろくなさそうに眺め、ページをめくる。
「それに、夕日に罪はないだろーが」
「…はぁ〜あ…いいよ、じゃあ夕日に快斗の顔を重ねて叫ぶから」
「…オレ、何かしたか?」
ばさばさと適当にめくっていた新聞を乱暴に折り畳み、机の上に放り投げる。特に興味のあるものはなく、目を引く記事は自分にとっては見たくない記事だ。…目当ての宝石じゃなかったから盗らなかっただけなのに、いかにも負けたように書かれているのは。
…面白くない。
ふと昨日言われたことを思いだし、快斗は更に機嫌を悪くした。頬杖をつき、むすりとして黙り込んだ快斗を見て、はぽふぽふと快斗の頭を叩いてやる。
「快斗ー?快斗くーん?元気ないですねー」
お前に言われたくないわ、と言い返そうかと思ったが、ふと思い付いて快斗はくるりとに向き直った。
「おめー、なんで海は青いと思う?」
快斗が言うと、はつっぷしたまま、顔だけ少し上げて答えた。
「海ー?そんなん決まってんじゃん」
「ほー。じゃあ教えてもらおうか」
そこでようやくは身を起こし、窓の外を見上げながら言った。


「だって、空は青いから。」


…それを聞いた瞬間、快斗はぽかんと口を開けて固まった。我ながら、相当間の抜けた顔をしてしまったと思う。
「…海が青いのは、空の青が映ってるからでしょ?」
何をそんな当たり前のことを、とでも言いたげである。それを聞いて、快斗は吹き出した。
「…っぷ、あはははは!」
「な…なに?」
くっくっく、と肩を震わせながら笑い、の肩にぽん、と手を置く。
「…うん。やっぱオレ、お前のこと好きだ」
「…は?」
唐突な快斗の台詞に、がぼんっと赤くなった。
「あっはっは、可愛いぞー」
「…うるさいっ、バ快斗!」
何やら荒れだしたをなだめつつ、快斗はこぼれる笑いを抑えきれずに笑い続けていた。…本当は、あの夜のことで、もっと色々聞きたいこととか、言いたいことがあったのだけれど。…なんだかもう、どうでもよくなってしまって。
結局こいつのこーいうところに、オレは惚れてるんだよなぁなんて今更ながらに思ったりした。
(けっ、ざまぁみろ)
…夢を見てるのはオレだけじゃないぜ、名探偵?
なんとも言えない高揚感の中、快斗は小さくガッツポーズを決めたのだった。




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