「ばかばかばかぁっ!快斗の人でなし、ろくでなし、馬でなしっ!!」
「ちょ、おい、待てって!つかオレはもともと馬じゃねーっ!」
「聞く耳持たないわーっ!」
「開き直りかよ!」
どたばたと走り回り、机を引っくり返し、プチトマトが宙を飛び、悲鳴が響き渡る。
「おい、お前らなぁっ!外でやれ、外で!」
たまらず叫んだ級友の台詞に、快斗はすぐさま反発する。
「オレは悪くねーんだよ!大体、突然が…」
ひゅっ。
真横を通り抜けた箸に、快斗は、つー…と一筋汗を流した。
なんて呼び捨てないでよね!図々しいにもほどがあるわ!」
「何を今更っ…!」
言い返そうとしたその時。
ぽろぽろと、大粒の涙を流して泣き始めたに快斗は硬直した。
「だっ、だってっ…か、快斗が昨日っ、宝石を盗っ…」
「わぁぁぁぁぁあぁぁっ!!」
瞬速での口を塞ぎ、快斗はそのまま教室を飛び出した。
「…ねー紅子ちゃん、快斗どーしたんだろうね?」
たこさんウィンナーを口に運びつつ、やはり弁当を食べている紅子に青子が問掛ける。
「…さぁ。なにか、さんの機嫌を損ねることでもしたんじゃないかしら」
(昨日…『月の涙』を盗ったとき、何かあったのかしらね)
残念ながら、自分はその場にはいない。軽く溜め息をつき、紅子は再び箸を進め始めた。





『バーロ!!あんな堂々と盗ったなんて言うやつがあるか!!』
…と、怒鳴りたい。
とりあえず駆け込んだ空き教室で、快斗は小さく溜め息をついた。だが、相変わらず泣き続けるを前に、仕方なく罵声を飲み込みしゃがみこむ。
「…あのさ、オレ、何かしたか…?」
「した。」
「即答かよオイ」
はきっ、と快斗を睨みつけ、泣きながら怒鳴った。
「快斗っ、昨日盗ったあと!女の人と抱き合ってたでしょ!」
「……げっ」
最も思い出したくない部分を思い返し、快斗は思わずそう口走っていた。
「げって言った…!見られてたのか、ミスったなってことでしょ!」
「いや、あれは…」
「スーツを着た大人っぽい人だった!年上好みだったんだ!」
「おい、ちょ…」
「そうだよね、快斗だってこんなガキんちょよりお姉さんがいいよね」
「だから…」
「いいよもう、だって本当に…」


「いや、人の話聞こうぜ。」


ぽんっ。
言って、の頭に手を置く。
「…あのなぁ、アレ、変装してた中森警部なんだよ。お前や白馬にも言わずに独断でやったことらしい。捕まえようとして抱きついたところ、おめーが見たのはそのシーンじゃねーか?」
「あ…」
「そのすぐ後、オレは逃げたんだけどな。白馬はお前のちょっと後に来たみてーだから、髭生えた赤スーツの“大人の女性”を見たはずだぜ?」
「…ぷっ。」
想像したのだろう。吹き出したを見て、快斗は安堵の息をついた。
「おめーが泣いたら、オレはどうしたらいいか分からなくなるんだ。だから…その…」
「…ごめん、快斗。私の勝手なはやとちりで…疑ったりして、ごめん」
しゅん、としたを見て、快斗は再び慌てた。
「あ、いや、だから…」
「ね、快斗」
「…って、え?」
「ドアの方、騒がしくない?」
言われてみれば、ちょっと前からやたらと賑やかだ。快斗は足音をたてずにそっとドアまで行き、…扉を一気に開ける。


どばっ!!


『ぅわっ!!?』
一気に流れ込んできたクラスメイトに、快斗は口の端を引き攣らせて言った。
「オイ…なにやってんだてめーら…」
ぎゃーだのわーだのと皆が叫んで去った後、一人残った紅子に恐る恐る聞く。
「…どこから?」
「ご心配なく。『お前が泣いたら』の辺りからよ」
「そうか…」
がひょこっと顔を出し、唖然とした顔をしている。まさか聞かれているとは思わなかったのだろう。
「黒羽くん?さんをあまり泣かせないようにね」
「あ、ああ…」
「泣かない女をご希望なら、いつでもどうぞ」
「紅子ちゃんっ!?」
焦った声を出すを見て、紅子は小さく笑って教室へ戻っていった。
「か、快斗〜!」
「心配すんなよ、冗談だって」
「う…うん…」
でも紅子ちゃん綺麗だし…などとぶつぶつ言っているを横目に、快斗は笑みを浮かべていた。
泣いて欲しくない、とは思うけれど。…そんなに妬いてくれたってのが、実は結構嬉しかったなんて。
絶対教えてやんねーからな!




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2004.6.13


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