「…溜め息をつくと幸せが逃げる、なんてよく言うな」 「はぁ」 またこの上司は唐突に何を言うのだ。 疑問に思いつつ、先を促す。 「…それが、何か?」 「いや…だとしたら、町中の人間の溜め息を集め、それを吸ったら相当の幸せ者になれると思わないか?」 「…大佐…」 仕事の詰め過ぎで、頭がイカれてしまったのだろうか。想像しただけで吐きそうになる考えを打ち消し、ホークアイは深々と溜め息をついた。 「…私は」 「え?」 「君に溜め息をつかせてばかりだな…」 仕事をためてしまったとき。 逃げた自分を見付けたとき。 …数を挙げれば、きりがない。 「一体、いくつの幸せが君から逃げてしまったんだろうな」 「…そんなこと、考えていたんですか?」 呆れたように言うホークアイに、ロイは少々面食らった。自分は今、そんなに呆れられるようなことを言っただろうか。 「大佐、幸せなんて溜め息つこうがつくまいが逃げるときは逃げるんですよ。それこそイモヅル式に」 「…現実的だな」 言って、ロイは苦笑した。確かにその通りだ。 「…それに」 「ん?」 「仮に溜め息で幸せが逃げるとしても、それで不幸になるほど私の幸せは貧困じゃないですから」 「…そうか」 それは、自分を気遣ってくれたのだろうか。いつも溜め息ばかりつかせてしまう、駄目な上司を。 「実は私も、割と幸せには困っていないんだ」 軽く伸びをして、そのまま手に持っていた資料をホークアイに渡した。 「あら、奇遇ですね」 ホークアイはそれを受け取り、チェックをしながら言葉を続ける。 「私もです」 君の隣にいることが、 あなたの隣にいることが、 ただ、それだけで。 …幸せだから。 ---------------------------------------------------------------- 2004.4.25 BACK |