わかっていたつもりだった。 死は、薄い壁一枚を隔てて日常のすぐ横に存在すると。 わかっていたつもりだった。 例え大切な人を失っても、自分が足を止めることはないと。 わかって、わかって、わかって… わかってなんか、いなかった。 「あああああああっ!!!」 死とは何だ。 何故だ。 どうしてこうなったんだ。 「中尉っ…中尉!!ホークアイ中尉っ…あぁぁあぁああ!!」 熱いものがこみあげてくる。涙なんて生易しいもんじゃない。 内臓全てを吐きだしてしまいそうだ。 理性が吹っ飛んだ脳は暴走を続ける。体が自分の思った通りに動かない。 …あぁ、いっそ、オーバーヒートで燃え尽きてしまえばいい。 身も、心も、欠片も残さず灰にしてくれ。 (「生きて」) (「大佐は、…生きて、下さい」) …それは、彼女が自分に遺した最期のメッセージ。 「……。」 あんまりだよ、中尉。 「いたぞ!あそこだ!」 「おい…あれは、焔の錬金術師じゃねぇか!?」 「構うもんか!やっちまえ!!」 迫り来る足音を耳障りに感じながら、ロイは小さく微笑んだ。もう二度と開かない彼女の瞳を見つめながら、呟く。 「君に、そんな…ことを言われたら、…死ねないじゃないか」 彼女の体をそっと横たえ、立ち上がる。 「なぎはらう…私の前に立ち塞がるものは全て!!」 生きる。 それが、彼女が最期に託した願いだから。 生きる。 「来い!!」 たとえ、歩んで行くその道が修羅の道であろうとも。 …生きる。 それが、それが… 「はぁっ!!」 …それが、彼女が自分に託した、ただひとつの願いだから。 生きる。 ---------------------------------------------------------------- 2004.5.23 BACK |