境界線





…限界というものは、越えるためにあると思う。それを越えれば、また新しい限界が見え、それを越えるために努力する…その繰り返しだと。
では、境界線は。
越えてはいけないのか。
(人体錬成…)
それは、人と神との境界線。越えては、いけない。



『人間なんだよ ちっぽけな人間だ………!!』



「水 炭素 アンモニア 石灰 リン 塩 硝石 イオウ……」
いつのまにかそらで言えるようになっていた、人体構成物質。歌うように口ずさんだあとで、ロイは小さく笑った。…自分を。

「わかっているよ」

(本当か?)

「信用しないのか」

(信用できねぇなあ)

「お前のまがいものと対面するなんざ御免だ」

(そりゃそうだ)

「次に会うのは地獄か?」

(天国って言っとけよ)

そう、この境界線は越えてはいけない。
「…大佐?」
「わかったよ」
「は?」
「独り言さ」
ぶつぶつと何事か呟いているロイを見て、ホークアイが入り口で不審そうな声をあげる。それを片手で制しながら、ロイは苦笑する。
それじゃあ、境界線というものは全て越えてはいけないのか。
“越えてもいい境界線はあるのか”
(…知るか)
そんなもの、行き着くところまで行かなければわからない。だったら、行ってみればいい。
書類をロイの机上に置き、さっさと立ち去ったホークアイの後ろ姿を見送ってから、ロイはぽつりと呟いた。
「…越えてみせようじゃないか」

越えることを許されるならば。

いや、許されるまで。

「…君と俺との境界線を。」




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2004.4.21


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