遠距離





「遠距離恋愛?」
「そう。でも耐えられないって言われちゃって…」
はあぁ、と深く息を吐き、ハボックは頭を垂れた。キャスリンにフラれてから、十日ほど後のことである。
「…で、『あたしと仕事どっちが大事なのよ』と言われたんス。キャスリンさんの理想にはなれそうもないしなれなくていいしなりたくもないです」
「…まぁ、そうだな」
ロイはそう答え、しばしぼんやりとハボックがくゆらせている煙草の煙を見つめた。
「…しかしあれだな、やはり女性は常に側にいたいと思うものなのか?」
「さあ…俺の場合がそうだっただけかもしれないし。大佐、遠距離恋愛する予定でもあるんスか?」
へらり、と笑って言う。あるわけないでしょう、という意味を込めて。
「…遠距離になる予定はない。私の場合はどこまでもついてきてくれるからな」
「へ?」
ぽろり…と煙草を落としたハボックを見て、ロイは不敵に笑った。
「なんだ、何か言いたそうだな」
「あ…いや…」
「火はきちんと消さないと危ないぞ」
言って、ハボックの落とした煙草を靴の底で踏み消す。
「さぁ、仕事に戻るかな。そろそろ中尉が探しに来るだろう」
「…そうっスね…」
視線は踏み潰された煙草の吸い殻から動かさず、ぼんやりとハボックも返す。
「どこまでも…か…」
思い浮かぶ人物は、ただ一人。
「つか、俺慰められてたんじゃなかったか…?」

なんで大佐の話にアテられているんだ。

去り行くロイの後ろ姿を眺めつつ、ハボックは深々と溜め息をついたのだった。




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2004.6.2


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