理想と現実





理想→軍の女性を全てミニスカートにするっ!無論ホークアイ中尉とて例外ではないっ!絶対命令!

現実→ホークアイのような現場で動き回る人間はズボン。




「駄目じゃないか!!」
「何がっスか!?」
唐突に叫んだロイに、ハボックが当然の疑問を投げ掛けた。それには答えず、ロイはぶつくさとぼやきはじめる。
「…あー何が悲しくて野郎と二人きり…」
がくっと頭を下げたロイに、ハボックは吸っていた煙草の煙を思いっきり吹き付けた。
「ぅえほげほがふぁっ!なにをするんだ!」
盛大にむせて咳き込んだロイを見て、ハボックははあぁ、と大きな溜め息をついた。
「…大佐ぁ、俺だって野郎と二人なんて嫌っスよ。しかも相手が大佐だなんて、一畳しかない部屋に上着を脱いで絶好調のアームストロング少佐と二人っきりで閉じ込められるのと同じくらい、いやそれ以上に苦痛なんですよ」
「…そこまで言われると私としても自分の存在価値を見い出す旅に出たくなるのだが」
「だ・け・ど!!」
ずだんっ、と机に手をつき、ハボックはじろりとロイをにらみつけた。
「ホークアイ中尉が!手伝えって言うから仕方なく手伝ってるんですよ!いーですか、この現状は大佐の怠慢が原因なんです。わかってるんスか!?」
それを聞いて、ロイは一気に青ざめた。
「中尉が言ったから…従っているだと?そ、それはまさかお前、『好きな子には嫌われたくないからボクなんでもしちゃう!君が言うなら宇宙に行って星だって取ってきて見せるよ☆無論君の魅力には敵わないけどね♡』っていうアレか!?」
「あんたはどこの世界のロマンティックドリーマーだ!!?」
全力でツッコミを入れ、ハボックはぜえぜえと肩で息をした。
「…違いますよ。だって中尉、怒らせると怖いじゃないっスか」
「あ、あぁ、なんだそういうことか」
ほっと胸をなで下ろしているロイを見つつ、ハボックは心の中で言葉を続けた。
(それに…『最近、珍しく仕事をこなしててね。ちょっとお疲れなのよ、お願いできる?』なんて言われたら、断れないし…)
仮にも上司なのだ。どんなに挙動不審でも、夢がミニスカートでも、無能でも、自分が好きな女性をとられても、サボり魔でも、

…上司なのか?

思わず疑問系になったが、一応上司のはずだ。多分。
「そーいや大佐、さっき何が“駄目”って言ってたんスか?」
自席に戻り、書類に目を走らせながら。何とはなしに聞いたその言葉に、ロイがカッと目を見開いた。
「そうなんだ、そこなんだよ!…理想と現実は違うなあ…という話なんだがね」
「はあ?」
「現場の人間がスカートを履くのは…悲しいかな、冠婚葬祭の時のみだ…」
ぶつぶつと呟きなから、完全にすわった目でハボックを見つめる。
「…そうだな、お前今すぐ結婚とかしないか?それか特進…」
「縁起でもないこと言わんでください!!」
好き放題言うロイに、ハボックが悲鳴をあげる。
「つまりあれっスか、中尉のスカート見たさに俺に死ねと!?」
「そうだ」
あっさり言い放ったロイに、ハボックはめまいを覚えた。前言撤回。やっぱこんな人が上司だなんて嫌だ。
「…じゃあ、現場だろうが内部だろうが強制的に全員スカート(ミニ)にすりゃいいじゃないっスか。大総統になって」
「! そうか…」
浜に打ち上げられた魚のような目をしていたロイは、一気に子供のような純粋な目になった。
「よし、そうと決まれば仕事だ仕事!やるぞハボック!」
「へいへい」
やってくれんならなんでもいいや、となかばというかほとんど自棄になりつつハボックが返事をすると、ロイは思い出したように付け加えた。
「あ、それから私が大総統になったらお前はクビな。野郎はいらん」
「…俺もう帰りたい…」
半泣きのハボックを置き去りにしたまま、夜は刻々と更けていった。




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2004.4.23


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