呼び名





「…え?」
「聞こえなかったのか?明日からお前は東方司令部勤務になる。今日中に荷物をまとめておくように」





「急だよなあ…」
もともとそんなに荷物のある部屋ではない。仮住まいなのだし、当たり前だといえば当たり前なのかもしれないが、それにしても殺風景な部屋だった。
「さて、と…」
急なことではあったが、これは自分にとってはチャンスだ。
まずは、東方司令部をまとめるトップになってやるか…
気がかりなことは、ただひとつ。
(あのこ…)
あの、金髪にブラウンの瞳がよく似合う…不思議な感じのする少女。あの花畑の日以来、顔を合わせていなかった。
「…無理、だよな」
もう一度会いたかったが、自分は彼女の住まいどころか、名前すら知らない。どう考えても、探す術はなかった。
「…また」
いつか、どこかで会えたなら。
…あの時の続きを、聞くことができるだろうか―――…。





「マスタング少佐、君の下に新しい部下がつくことになったぞ」
「はっ」
ぴっ、と敬礼した後、後ろの扉から誰かが入ってくる気配を感じた。振り向くよう促され、ゆっくり体を反転する。
「リザ・ホークアイ准尉だ」
「よろしくお願いします」
…目に映える金髪に、深く澄んだブラウンの瞳。妙な既視感に、視線が彼女に釘付けになってしまった。
「…どうかしたか?マスタング」
不自然に思ったのだろう、上官に声をかけられ、ロイは慌てて目を逸らした。
「いえ、何でも…」
気のせい、だろう。一瞬フラッシュバックした、幼き日の思い出に首を振る。上官に礼をして部屋を出ると、彼女が改めて名乗った。
「リザ・ホークアイ、階級は准尉です。よろしくお願いします!」
びしっ、と敬礼して言われ、ロイも姿勢を正して返す。
「…私についてこい」
「はっ!」
…私は、あなたの傍にいることで私の信念を貫く。だからあなたは、自分の信念を貫いて。

「ロイ!」

「少佐」

「中佐」

「大佐」

例え呼び名が変わっても。…私の、あなたに対する想いは…
変わらない。




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2004.9.9


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