もしも、の話





「私が死んだら、大佐はどうなさいますか」
唐突なホークアイの言葉に、ロイは言葉を失った。いや、唖然としてとっさに言葉が出なかった、というほうが正しいだろう。
「…そんな話、するだけ無駄だと思うがね」
なんとかそれだけ言って、再び視線を書類に向ける。
…内容が、頭の中に全く入ってこない。視覚としては捉えていても、脳がそれを情報化してくれない。
「…例えば、の話です。私が死んだら、なんて生きているからこそできる話ですよ」
淡々と続けるホークアイに、ロイは仕方なく再び視線を戻した。
「何故、そのような話を?」
「…軍人ですから。明日のことは分かりません」
そう言った後、「妙なことを聞いてすみませんでした」と頭を下げた。
「いや、謝るようなことではないけれどね。…じゃあ、ひとつ聞こうか」
そう言い、ロイは一旦言葉を切ってから続けた。
「私が死んだら、君はどうする?」
その言葉に、ホークアイは軽く目を見開いた。…虚をつかれたのだろう。
「…死なせません」
短く、だがしっかりとした口調で。そう言いきったホークアイに、ロイは満足そうな笑みを浮かべた。
「その言葉、そっくりそのまま君に返そう」
「…え?」
「君が死なせないから、私は死なない。私が死なせないから、君は死なない。…これでどうだ?」
ロイの自信深げな態度に、ホークアイは苦笑した。…まさか、こんな展開になるとは。
「言葉遊びみたいですね」
「私は至って真面目だよ」
「…ありがとうございます」
そう言って微笑んだホークアイに、ロイも満足そうに笑い返す。
「この書類はいつまでだったかな?」
「今日の午後ですね」


…時間が再び、穏やかに流れ始めた。




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2004.7.25


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