かなり長い間抱いている疑問が、一つだけある。
それはとても簡単で素朴なのだけれど、だからこそ今聞くのは躊躇われた。
お互いに、口に出さずとも考えが分かる程度の付き合いはあったから、今更そんなことを聞けば、あの人を失望させてしまう気がして。
…そんな薄っぺらい関係を築いてきたつもりはないけれど、それは私の独りよがりだ、という可能性だってあるのだから。
けれど無視してしまうには、それはあまりに大きいしこり。
だから私は、さり気なく聞いてみる事を決意したのだった。
<< 27. 信頼関係 >>
「大佐。そちらの書類は終わりましたか?」
「んー…もう少し待ってくれ」
気だるそうに呟く大佐は、さっきから一枚の書類を仏頂面で眺めていた。
ちらりと横目で覗くと―――『鋼の錬金術師が破壊した公共物の弁償について』
「…つい10分ほど前にも同じ言葉を聞いた気がしますが」
「気のせい気のせい。今の私は、鋼のにどんな嫌がらせをすれば気が済むか悩んでるんだ」
その書類にはこうも記してあった。
―――『なお、弁償金は全て東方司令部の焔の錬金術師に廻すように、と鋼の錬金術師は述べている』
「それは休みの日にでもどうぞ。今は勤務時間中ですから、私的な報復行動についてはお控え下さい」
「うー…」
結局大佐は、エルリック兄弟に託けて怠けたいだけ。
…そのぐらい分かります。でなければ、貴方の部下は務まりませんよ。
「じゃあ中尉、ちょっと手伝ってくれないか。…ここに来るということは、今は暇なのだろう?」
「……………………………………」
これ。これが、常々不思議に思っている大佐の行動。
わざわざ私が手伝わずとも、大佐ならこの程度の書類チェックなど造作もないはず。
普段は軽く装ってはいるけれど、本当はかなりの辣腕家であることを知っているから、余計にそう思う。
なのに大佐は、何かにつけて私を頼ろうとする。
今回のように書類チェックの時もある。ハクロ将軍などと応対する時のこともある。
…私には理解できないその行動。
「…大佐。一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
「何だね、言ってみたまえ」
「はい。…大佐は何故、必要のないはずの時でも私に手助けを頼むのですか?」
問うた瞬間、目に入ったのはきょとんとしてこちらを見つめる大佐の顔。
あごに手をやり、何かを考える素振りをして、それから。
「それはつまり…『こっちも忙しいんだからあんまり頼るんじゃねぇよバーカ』ってことかな?」
瞳を輝かせて言う様子はあまりにもその台詞からかけ離れていて、冗談を言っているのだと丸分かり。
…こうも分かりやすいと、意地悪の一つもしたくなる。
「それもありますが」
「あるの!?」
悲鳴のような声は、聞き流すが吉。
「そうではなく、純粋な疑問です」
「…なるほど。じゃあ、簡単なことだよ」
「?」
悪戯をしかけようとする子供の目だった。
大佐がそんな顔をする時は決まって悪い事が起こるから、思わず身構えたけれど。
「君を信頼しているから、頼るんじゃないか」
「!」
…『悪い事』は起こらなかったけれど。
その分、意表を突かれた。
何か言いたいのに、不覚にも動揺してしまって言葉が出てこない。
そして大佐が、胡散臭いほど爽やかに笑う。
「中尉、どうかしたかね?」
絶対に確信犯だ。
…不覚。本当に、不覚の極み。
「…自分でできることは自分でやってください」
「りょーかい」
クスクスと堪えきれずに笑っているのが、何とも小憎らしい。
いつもいつも振り回されてばかりの自分が嫌になる。
…でも、信頼されていること自体は、本当は少し嬉しい。
けれど、大佐はそんな私の心の内を正確に読んでいるであろうことに思い至って、一気に機嫌は急降下した。
思わず、笑い転げている大佐の向こう脛に蹴りを入れる。
「…いっ…!?ちゅ、中尉…」
「どうかなさいましたか、大佐」
「い、いや…そんなしれっとしてだな…」
目の端に涙を滲ませて、いつもどおり、ちょっと情けない大佐の姿。
知らず知らず、笑みが浮かぶ。
「それでは、私はこれで。…次に来るまでに、せめてその書類くらいは終わらせておいて下さいね」
「ちゅ…!」
バタン、とわざわざ大佐の声を遮るように後ろ手で扉を閉めて。
それから私は、クスリと微笑んだ。
その微笑の意味は私にも分かりかねたけれど…何だか心地よい感情だったのは、確か。
そうやって積み重ねられていく、それが日常。
こんな感じで…大丈夫ですか?(汗)
一応大佐に主導権っぽいもの握らせたんですけど、すぐに奪回されちゃいました(笑)
[04/05/03]
【ウタノより】
唯我さん、素敵ロイアイありがとうございました…!!
ちょっと優位な位置になって「ふふん」て感じのロイが素敵ですvv
結局リザさんに主導権戻るあたりが私のツボでした!
最後のリザさんが可愛くてやばいです。大好きです(告白!?)
本当に、どうもありがとうございました!!
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