『1万円札で埋め尽くされたお風呂に入りたい』

「夢がないっ!!!」
「うわーっ!外さないでくださいよ!何してるんですかーっ!!」
「新八は所詮その程度の願いしか書けないアル。私の願いは壮大ネ!」

『宇宙中の愚民が跪きますように』

「子どもらしくないっ!!」
「あーっ、なにするアルかーっ!!!」
「じゃかあしいわあああ!!」





願いごと、ひとつ。






「だって銀ちゃん!神楽ちゃんと新八くんが全然子どもらしくない願いを書くんだよ!」
「願いだァ?なんだってそんなことになってんだ」
心地良い昼寝タイムを邪魔されたせいだろう。面倒くさそうに言うと、銀時は大きくあくびをひとつした。
「今日はたなばたあるネ!そんなことも知らないアルか」
神楽の言葉に、銀時が眉をひそめる。
「たなばたァ?たなぼたなら歓迎すっけどな。大体彦星と織姫だってな、年に一度しか会えないんだろーが。二人でにゃんにゃんよろしくやってるときに願い事なんざ…」
「下品!!!!!」
「ぐふぉあっ」
の繰り出した裏拳が、見事に銀時にヒットした。
望んだものではないが、これで再び夢の世界へと舞い戻れたというわけだ。
「神楽ちゃん、新八くん、今夜は七夕だからちょっと夕飯も豪華にするよ。買出し頼んでいい?」
「はい」
「まかせるアル!」
「…そのついでに子どもらしい願いも考えて来るんだよ」
「「えー」」
「はいはいいってらっしゃい!」
蹴りだす勢いで二人を追い立てると、はふうと息をついた。
「まったく、誰のせいであーんな願いを書いちゃうんだか」
「…俺のせいだとでも言いたいんですかコノヤロー」
「あれ?起きてたの」
「おかげさまで」
よっこいせ、とおよそ若者らしくない声をかけつつ起き上がると、笹に飾られた短冊を手に取る。

『人よりちょっとだけお金持ちになりたい 

「妙にリアルな分おめーのほうが可愛げねえぞこの願い!!!」
「何よー!大金持ちじゃなくていいけどちょっとだけお金持ちになってほんの僅かな優越感に浸りたいっていう願いのどこが悪いの!!」
頬を膨らませて言ったに、がっくりと膝をつく。
「うわー…銀さんしょっくー。もーちょい乙女な願い期待してた」
「乙女な願い?」
きょとん、としてに聞き返され、はっと口元に手をやる。
「ばっ…変な意味じゃ、」
「あ、わかった!『みんなの願いが叶いませんように』とかそんなの?」
「お前の乙女の基準って何!!!??」
えへへ、と照れくさそうに笑いながらが言う。
「いつだって自己中心主義…かなっ…」
「はいそこテレながら言う台詞じゃありませーん」
「うわあっ」
ぽんぽん、と頭を撫でられ、がきょとんとする。
「…銀ちゃん?」
「んー」
そのまま動こうとしない銀時に、が不思議そうに声をかける。
「どうしたの?持病の痔が痛む?」
ちゃーん、俺は痔主になった覚えはないぞ〜〜〜〜?」
「痛い、痛いよ銀ちゃん!!」
頭の上の手が、ぎりぎりと脳髄を刺激する。
(…ったく)
人の気も知らないで、暢気なヤツ。
手を離して解放してやれば、恨みがましそうにこちらを見てくる。なんだってこんなこまっしゃくれた女のことを…と思いかけ、がしがしと頭をかく。やめよう、考えてもどうにもならないことだ。
「おめーは『もう少し女らしくなりたい』とか願っとけ。グラマーな織姫が叶えてくれっかもしれねーぞ」
「わかんないよ、織姫意外に貧乳に悩んでるかもよ」
「貧乳に悩む織姫ってどんな織姫!!?」
「銀ちゃーん!ー!ただいまアル!」
ぎゃあぎゃあやっている間に、買い物が済んだらしい。神楽と新八が元気よく帰って来た。
「ただいま」
「おかえりー。子どもらしい願いは考え付いた?」
買い物袋を受け取りながら、が二人に尋ねる。
「世界征服にするアル!」
「一万円札が入ったカバンを拾いたい、にしようかと」
「うん変わってないね。」
一気に賑やかになったその様を眺めながら、銀時は再びソファに横になった。
(…願い、ねえ。)
星に願いだなんたガラじゃないし、願ったところで叶うなんて考えているわけではないが。
(織姫さんに彦星さんよ、もし暇だったらちょっくら聞いてくれよ)
天井の、屋根の、その向こうの空へとそっと囁きかける。
(…俺ァ、今の生活が割合気に入ってんだ。だから、)
「銀ちゃん!」
の声にうっすらと瞳を開けば、何がそんなに楽しいのか、満面の笑みで再び呼ばれる。
「銀ちゃん、ご飯の前にお茶にしよ!」
「……オゥ」

だから。

(…星に願掛けするよーじゃ駄目だよな)
身を起こして、そちらへと向かって。
ぽん、との頭に黙って手を置く。
「? 銀ちゃ……」
「痔はねーからな」
「えー銀ちゃん痔主アルか!?」
「ちょっ、早めに治療しないと手に負えなくなりますよ!」
「だから違うっつってんだろーがァァァァア!!」


………だから。



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