『リーマスー!!』 「…うん?」 後ろからどたばたと聞こえてきたやかましい足音に、リーマスは足を止めた。 「コレ見ろ!」 ジェームズが掲げたのは、金のスニッチ。 「いや、先にこっちを見ろ!」 シリウスが持っていたのは、犬用フリスビー(自前?)。 「僕のも見て!」 ピーターが見せているのは、どこから持ち出したのか、壁掛け用の真ん丸の時計だ。 「…えーと…?」 『さあ!』 なにやら期待に満ちた眼差しで見つめられ、リーマスは疑問符を浮かべて立ち尽くした。 …何がしたいんだ? 「…おいジェームズ、やっぱりソレ誤情報じゃないか?」 しばしそのまま時が流れ、沈黙を破ったのはシリウスだった。 「…っかしーなぁ?ド●えもんズの狼男は、丸いもの見ただけで変身してたんだけど」 「種類が違うんじゃない?」 時計を重そうに抱え直し、ピーターがジェームズに向かってそう言った。 「…おーい」 「じゃあアレだ!ピーターをぶくぶくに太らせて丸くしよう!」 「えーっ!!?」 「…あのさぁ」 「冗談じゃないよ!ジェームズかシリウスがなれば良いだろ!」 「リリーが悲しむじゃないか」 「俺がそんなのになったら、ホグワーツ中の女の子が涙で枕を濡らすことになるだろ」 「…君たちさぁ」 「あっはっは!ありえねー!」 「ジェームズだってこの前、」 「いい加減にしろーっ!!!」 ドーンッ!! 「リ…リーマスさん?」 吹き飛んだ屋根の一角を見上げながら、シリウスがおそるおそる声をかける。 「あのさぁ…そんなにお手軽に狼になれるわけないだろ? 第一、そんなんじゃあジェームズの顔見る度に変身してるよ」 「ええっ、僕の顔そんなに丸い!?」 両手を頬に当てて後ずさるジェームズに、シリウスが冷静にツッコミを入れる。 「メガネだよ、メガネ」 「…わかってるさ。ボケてみただけだよ」 そう言うと、爆発でズレたメガネをかけ直してにやりと笑った。 「リーマス、ここにとどまるとグリフィンドールは最低でも50点減点だ」 「…う」 綺麗に見える青空。先生の誰かがすっとんでくるのは間違いなかった。 「そもそも君たちがこんな馬鹿なことを…」 しなければ、と言いかけて。ジェームズの視線が、自分の後ろに注がれていることに気付いた。シリウスの“獲物発見”の目つきで、すぐに誰なのか分かる。 …カモが来た。 「こら!そこの生徒…!」 声が聞こえた瞬間、リーマスはくるりと振り返ると、びしぃ!と効果音も鮮やかに、真後ろで高みの見物を決め込んでいた少年…スネイプを指差した。 「先生!スネイプ君がジェームズ君に向かっていきなり魔法をっ!」 「…なっ」 気付いたときには、時既に遅し。完全に油断していたスネイプは、何も行動を取れずに立ち尽くしていた。 「スリザリン、50点減点!」 「ちょっ…我輩は何も」 「話はこっちで」 「…おのれぇえぇぇ!!」 ずりずりと引きずられていくスネイプに笑顔で手を振りながら、リーマスはにこやかな顔を崩さないままくるりと向きなおった。 「…リーマス君、笑顔がはりついてます」 危険を感じたシリウスがじりじりと下がりながら言うと、リーマスはますます笑みを深くして言った。 「友達なんてあてにならないね」 「…は?」 慌てて見やれば、ピーターもジェームズも既に逃げ去った後。残っているのは、自分のみである。 「え、ウソ俺一人!?」 「覚悟はいいよねシリウスゥゥゥゥ」 目の前に迫った笑みに、シリウスは頬を引き攣らせ、無駄だと思いつつも答える。 「…よくない」 「問答無用ぉぉ!!」 「ぎゃー!!!」 「…提案するのはいつもジェームズだよね」 「そうだなー」 「犠牲になるのはいつもシリウスだよね」 「その通り」 「いつになったらシリウス、気付くのかなあ?」 「あっはっは!」 遠くから聞こえてきた悲鳴と更に距離を広げるため、ジェームズとピーターはそのまま全速力で走り続けたのだった。 ---------------------------------------------------------------- BACK |