ホグワーツ、ただいま夏休み直前です。 「…明日には家に帰るのかー…」 ぼんやりとしながらジェームズが呟くと、横にいたシリウスがなにやら楽しそうに言った。 「んじゃ、何か最後にパーッとやってくか?」 それを聞いて、ジェームズの目がきらりと光る。 「パーッと…か。それもいいかもな!よし、じゃあシリウス、リーマスとピーターに伝言してくれ。各自ひとつずつイベントを用意して、今日の夕方に裏庭に集合だ!!」 「やーお待たせー!」 『遅い!!』 夕方とはいえ、まだ気温は高く蒸し熱い。こんな中外に長時間居るのは得策ではない、ということで、ジェームズが最後に現れ四人が揃うと、早速それぞれの用意したイベントが始まった。 「はいはーい!僕一番手ね!」 勢いよく手を上げたのはジェームズである。 「オーケィ。お手並拝見といこうか」 妙に余裕なシリウスを横目に、ジェームズは背中に背負っていた“それ”をどんっ、と地面に下ろした。 「じゃじゃーん!真夏のお約束、我慢大会!ジェームズ特製鍋だー!!」 『なにぃいぃぃいぃいぃっ!!?』 一斉に叫んだ面々に、ジェームズは満足そうな笑みを浮かべた。 「ジェ…ジェームズ特製鍋だと…!?」 震える声で言ったシリウスに続き、リーマスが青ざめた表情で続ける。 「以前作った『ジェームズ特製クッキー』の被害者は…20人を越えたというのに…!」 さらにピーターが、震えを隠そうともせずに叫んだ。 「僕まだ死にたくないよー!!」 「…ってちょっと待てー!!お前らなぁっ、我慢大会じゃなくて、僕の作った鍋に恐れ慄いてるのか!?」 『うん。』 あっさり頷いた三人に、ジェームズはがっくりと肩を落とした。 「…ったく…いいさいいさ、とにかくさあっ!食べてみろ!」 がぱっ!と蓋を開いた鍋は、ぐつぐつと煮立っている。 「おまっ…これ、どうやって背負ってきたんだよ…」 「シリウス…それより、鍋の中身を見てご覧よ…」 頬を引き攣らせながら言うリーマスの言葉に従い、よく見てみる。 「………。」 …よく見なければ良かった。まず、全体の色がおかしい。普通、鍋というものはショッキングピンク色ではないはずだ。さらに、ところどころにプカプカと何かが浮かんで…… 「…っおい!これ、何の我慢大会だよ!間違ってねーか!?」 「はい、これピーターの分」 シリウスの抗議を五月の風の如く爽やかに無視し、ジェームズは小皿に鍋を取り分けていった。 「…で、こっちがシリウスでこれがリーマスの分だ」 もはや逃げることは不可能だった。 「…ええいっ、食ってやるさ!!」 「毒を食らわば…」 「皿までってね!」 3人は(ジェームズは眺めているだけ)一斉に皿にかぶりついた。 …ふりをして、実際にかぶりついたのはシリウスだけだった。 「……こっ、これは…!?」 シリウスの目がキラリと光る! 「う…う…うまいワケあるかああぁぁぁぁぁぁ!!!」 どんがらがっしゃーん!! 「うわーっ!!なんてことするんだよシリウス!?僕が一生懸命愛と勇気と一滴の何かを混ぜて作ったスペシャル鍋に…!!」 「一滴の何かってなんだぁぁぁああ!!」 取っ組み合いの喧嘩を始めた二人を横目に、リーマスはその鍋の中身を雑草にかけてみた。 「…あ、枯れた」 「うーん…食べてみたらおいしい、っていうお約束の展開を期待してたんだけど」 見た目どおりの味だったみたいだねえ…そう言って、ピーターもそれを地面にだらだらと流す。…地面はしゅわしゅわとおかしな音を立てて泡立っていた。 「大体なあっ、こんな真夏に鍋をエンジョイできるわけないだろ!?」 「だーかーらーっ、これは我慢大会!エンジョイしないのが目的だったんだよ!」 「…とりあえずさぁ、次、僕が用意したイベント行ってもいい?」 放っておいたら、どちらかの耳が鍋の取っ手になるかもしれない。ため息をつきつつ言ったリーマスの言葉に、2人は文句を言いながらも喧嘩を取りやめた。 「…で、リーマスは何を用意してきたんだい?」 うきうきと言ったジェームズに、リーマスは軽くウィンクして言った。 「ヒントは●●すくい。夏の名物、なーんだ?」 「あ!俺知ってるぞ!!」 シリウスがばっと挙手して言う。 「金魚すくいだろ!?任せとけって。うまいぜ、俺!」 しかし、シリウスのその言葉にリーマスは首を横に振った。 「甘いなあ…違うよ。いいかい…アクシオ 水槽!!」 『水槽!!?』 その途端、どこからともかくものすごい勢いで水槽が飛んできた。しかも半端な大きさじゃない。 「ちょっ…おい、リーマス、何を」 「シリウスっ、危ない!!」 間一髪、ピーターがシリウスの腕を引っ張ったおかげで、シリウスは水槽につぶされる運命から逃れることから出来た。 「おいおいおい…」 水槽の中身を覗き込んだジェームズが、引きつった笑みを浮かべる。 「リーマス、これは…」 「その通り!!人魚すくいだよー!!」 『人魚すくい!?』 驚嘆の声を上げた二人とは裏腹に、ジェームズがリーマスの肩に手をぽん、とおいて言った。 「リーマス…これは人魚じゃない。水魔だ」 「…って、水魔かよ!」 「いや、でも…水魔って、一体どこから仕入れたのさ…」 おそるおそる覗き込んだピーターが、当然の疑問を口にする。 「うん、ちょっと闇の魔術に対する防衛術の教室から無断で借り受けたんだよ」 笑顔で言ったリーマスに、ピーターも笑顔で答えた。 「なーんだ、無断で借り受けただけなんだね。良かったー」 「気づけピーター。それは世間では盗人って言うんだ」 疲れた表情でツッコミを入れるシリウスに、ジェームズが苦笑した。 「まあ、そういうこと。とにかく借り受けたからには楽しませてもらおうか!!」 「…どうやってすくうんだよ…」 細長い指が時折見え隠れする緑色の水槽を見て、シリウスがげっそりとした声を出す。 「そりゃあ…」 チラリ、とジェームズが視線を送れば、それに答えてリーマスが続ける。 「…ねえ。決まってるだろ?」 そして、ピーターがすすすすす、とシリウスの後ろ側へ回った。 「何が決まって…っておわあああああ!?」 ざっぶーん。 「うう…ごめんシリウス…でも僕にはこうするしか…」 「ピィィィィィイイイイタアァァァァァ!!!」 「うわああああああ!!」 ずぶ濡れのどろぐちゃになったシリウスにピーターが追いかけられるのを見て、ジェームズとリーマスはお腹を抱えて笑い転げていた。 「じゃあ、次は僕!」 「もう何が来ても驚かねーぞ…」 ひたすら貧乏くじを引き続けたシリウスは、半ばヤケ気味にそう言い捨てた。 「じゃーん!…コレなーんだ?」 ピーターが取り出したものは、大きく丸くて、緑色で黒い線が入って… 「スイカだよね?」 確認するように聞いたリーマスに、ピーターは満面の笑みを浮かべた。 「そのとーり!スイカ割りだよ。じゃあ、誰が割る?」 うきうきと目隠しと棒切れを取り出しながら言うピーターに、シリウスがばっと挙手した。 「俺!俺がやる!いいよな?」 いいよなも何も、さっさと目隠しを始めたシリウスを見て、「僕もやりたかったのに!」とジェームズが文句をつける。 「ジェームズ、君の役割はまだ残ってるよ?」 「え?」 にっこりと言ったリーマスの手には、いつのまにかスコップが握られていた。 「知ってるかい?スイカ割りの通は、ダミーを用意するんだ。本物のスイカの横に、誰か一人を埋め込んでおくのさ」 「…えーと…それを、僕が…やる、のかな…?」 “謹んで辞退申し上げます”という体勢のジェームズに、リーマスはさらに言葉を続ける。 「シリウスばっかり楽しむのはもったいないだろ?さあ、遠慮するなって」 ピーターはと言うと、「知らなかった!!」と感心しきりである。 そもそもここには“スイカ割りの通”などいないのだから、そんなことする必要はないという考えは頭をかすめもしないらしい。 「よ…よし、なら僕も男だ、いっちょやってやるか…!!」 「そう来なくっちゃね!」 首元までジェームズを埋めてから、そのすぐ横にスイカをセットする。 「リ…リーマス君、距離が近すぎやしないかな…?」 「大丈夫だよ!まあそれに、どっちが割れても飛び散るのは赤い飛沫だし…」 「わぁぁぁぁぁ!!?ちょっと待て今のは聞き捨てならないって!!」 ぶんぶんと首を振っても、執拗に踏み固められた地面はぴくりともしない。 「シリウスー、スタートしていいよ!」 のんびりとしたピーターの声に、もはや逃げることは出来ないと諦めた。 (シリウス…僕を割ったら取り憑いて離れないからな…!) 既に目隠しをしていたシリウスは、ジェームズが埋まっていることを知らない。適当に当たりをつけては、力いっぱい棍棒を振り下ろしていた。 「ここかー!?それともここかー!!どらぁっ!」 ボコォッ。 (ヒィ……!!) マズい。このままでは本当に明日の朝日を拝めなくなる。 「お、おいリーマス、シリウスが僕を殴らないようにちゃんと指示してくれよ!?」 「任せてよ。おーいシリウス、もっと右!」 「それは僕だぁぁぁ!!」 ジェームズの悲鳴を聞いても、シリウスには何のことだかわからない。 「よっしゃあ、ここだなっ!!」 ゴォォォオオォォオォオォォンッ。 (ああ…もう一度百味ビーンズを食べてから死にたかった…) よくわからないことを考えたまま、ジェームズの意識は溶け消えていった。 「悪かったよ!まさかお前が埋まってるなんて思わなかったからさー」 「…ああ…まさかあそこまで力いっぱいやられるとは思わなかったよ…」 みんなでスイカを食べながら、ジェームズは見事にふくれたタンコブを恨めしそうになでた。意識を取り戻したのが「スイカ食っちまうぞ!」のシリウスの一言だったのだから、 そんな自分も情けない。 「最後はシリウスだけど…何を用意してきたの?」 丁寧に種を取り除きながら言うピーターに、シリウスがにやりと笑って言う。 「俺のを最後にした理由は簡単だ。見ろよ、もう暗いだろ?」 「そういえば…」 リーマスが上を見上げると、既に夜の闇が迫ってきていた。 「じゃーんっ!!巨大打ち上げ花火ー!!」 『花火!?』 「そうだ!この前ドンコの店で買ったやつなんだけど、どんな仕掛けかわかってないんだよな!」 自信満々そう言うシリウスに、ピーターがおそるおそる声をかける。 「仕掛けがわかってないのは危なくない…?だってシリウス、この前もよくわからないお菓子食べていきなり王様みたいなヒゲが生えただろ?」 ピーターの言葉に一瞬たじろぐも、やめる気はないらしい。再びそれを構えなおし、びしっとジェームズに向ける。 「まあやってみる価値はあるだろ!てわけでジェームズ!!」 「何で僕!?」 スイカの種を力いっぱい吹き出し、ジェームズがむせた。 「いや…よくわかんないんだけど、コレ人間花火って書いてあるんだよな。ピーターだと心配だし、リーマスだとあとが怖いから、ジェームズで」 あっけらかんとして言ったシリウスに、ジェームズはスイカを握りつぶした。既に皮だけになっていたが。 「ふざけるなっ!そんなのお前が飛んでけばいいだろ!夜空の星になれ!!おおいぬ座の星になれ!」 「待てっ、確かにおおいぬ座にはシリウスがいるけど俺とは別って、ああっ!!」 ジェームズがつかみかかってきたことによって、ぽーんと花火が飛んでいく。 「……あ」 そして、それはリーマスの手中に収まった。 「ちょっ、リーマス、絶対火ぃつけんなよ!?」 シリウスがそう言いながら駆け寄ろうとしたときだった。 「もうつけちゃった♡」 『……はい?』 ドドドドドドドドドドドドドドドドド…… 何かとんでもない音が響き渡り、リーマスの持つ花火がぶるぶると震え始める。 「…おいシリウス、やっぱアレ何かまずそうだぞ…」 「俺も今そう思ってたところだよ…」 唐突に音が鳴り止んだ、その瞬間だった。 ドゴォォォオォォォオォッ!!!! 『うわああああぁぁぁぁぁぁ!!?』 花火からものすごい勢いで火花が飛び出し、まん前にいた3人…リーマス以外が、全員ものすごい勢いで吹き飛ばされた。空に向かって。 ドーン… ドーン… ドーン… 「たーまやー!」 立て続けに3つの花火が散るのを眺めつつ、リーマスは笑顔で空に向かって叫んだ。 「…グリフィンドール、50点減点です。」 …とりあえず、夏の思ひ出はあまりいものにはならなかったようである。 ---------------------------------------------------------------- BACK |