さぁさ皆様、とくとご覧あれ。我らいたずら仕掛け人、本領発揮の時である!! 「今日、諸君に集まってもらったのは他でもない…作戦決行についての打ち合わせだ」 「ああ…分かってる」 静かに話し出したジェームズに、シリウスが応じる。 「決行まではあと一週間だ、そろそろ準備に取りかかろう…そう言いたいんだろう?」 「僕はいい相棒を持った」 続けたシリウスに、ジェームズが満足そうに答える。 「やるからには徹底してやらないと」 にやり、と不気味な笑いを浮かべてリーマスが言うと、ピーターが怯えたように返す。 「で、でも…捕まったら、ものすごく減点されちゃうよ!」 「「「捕まらなければいいんだ」」」 恐ろしいほどきれいに揃った声に、ピーターは黙り込んだ。 「なんだ、怖じ気付いたのか?」 「そ…そういうわけじゃないよ!僕だって、やるからにはとことんやってやるさ!」 開き直ったかのように息巻いて言ったピーターに、ジェームズが満足そうに笑って言った。 「それでこそいたずら仕掛け人だ、ワームテール」 「それでプロングズ、今年の手はずは?」 シリウス…パッドフットの声に、再び視線をそちらへ戻す。 「んー…もうあらかたやりきった気がしなくも、ない。毎年毎年“去年以上のものを!”と息巻いていれば、まあそれは当然の結果とも言えるが」 「そうだねぇ…」 リーマスが唸っている横で、ピーターもまったく同じポーズで考え込んでいる。 「今年もホグワーツ中に仕掛けを施すのは変わらない。だが、きっかけを少し変えてみようと思う」 「「「きっかけ?」」」 不思議そうに聞き返してきた3人に、プロングズは不適に笑って繰り返した。 「そう、きっかけだ。“奴”にとって、忘れられないハロウィンにしてやろうじゃないか」 「やは、セブルス。ご機嫌麗しゅう」 「…なんだ。我輩は貴様のような低俗な輩に構っている時間など、小指の爪の先ほどもないのだがな」 「そんな突き放さなくっても」 にこにことしながら話しかけてきたジェームズに、スネイプは警戒色を全面に押し出した。こんな顔をしている時のジェームズに近付いて、ろくな目にあったためしはない。 「…退け。我輩は寮へ帰る」 「えー?ハロウィンのご馳走食べないの?」 宴はこれからだ。心底不思議そうに聞かれ、イラつきを隠そうともせずにスネイプは舌打ちをして言った。 「興味がない。それよりも早く課題を終わらせてしまいたいのだ。退かなければ強硬手段に出るぞ」 杖を出す素振りを見せたスネイプに、ジェームズはお大仰に手を上げて“降参”の意を示した。 「待ってくれよ、セブルス。僕は別に、君に喧嘩を吹っかけに来たわけじゃない。ただ“ハロウィンのお約束”をね、やっておこうかと」 「…ハロウィンのお約束?」 「そう。“お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!”ってね。てなわけで、“trick or treat?”」 「〜〜〜〜ポッター、貴様ぁっ!!どこまで我輩を愚弄すれば気が済むのだ!!」 どうやら本気で怒ってしまったらしい。杖を振り上げたスネイプに向かって、ジェームズは唇の両端を吊り上げて言った。 「はっ、ハナからその気はないってことか!了解だ、それなら遠慮なく“いたずら”させてもらうぞ…仕掛けろ!!」 「!?」 ジェームズの言葉に危機的なものを感じ取り、スネイプはぴたりと足を止めた。既にホウキに乗って手の届かないところへ行っていたジェームズは、スネイプを見下ろすとニヤリと不気味な笑みを浮かべた。 「…今更お菓子をくれても遅いぞ、セブルス。これは君が招いた事態だ」 「な…なんのことだ…?」 がぼっ。 聞いた途端、何かをかぶせられて視界が奪われ、それと同時にふいに体が浮いた感覚を覚え戦慄した。 「何をする!放せ!!」 「…いいけど、今話したらお前本気で死ぬかもしれないな」 「! その声はブラックか。やはりお前ら共謀していたのだな、我輩をどうする気だ!!この下衆め、放せ!!」 「あんまり暴れんなよ。ついでにそれ以上余計なこと言うと、割りと即座に不幸になるぜ。人為的に」 静かな脅しを含んだシリウスの声に、スネイプは黙り込んだ。言われるがままなのは悔しいが、視界がない状態では不利なのはこちらだ。下手に逆らわない方がいい。 「…っし、到着!じゃあな、楽しんでこいよ!」 「な……?」 びゅんびゅん、と耳元で風を切る音がする。肌に感じるのは、冷たい外の空気。…自分の予想が当たっているならば、もしや、ここは。 「暴れ柳様、一匹生きがいいのを連れてきてやったぜぇぇぇえい!!」 「ぬおわわあああぁぁぁぁあっ!!?」 勢いよくスネイプを暴れ柳に向かって放り投げると、シリウスは脱兎の勢いでその場を離れた。 「よぅ相棒、首尾はどうだ?」 頃合良く姿を現したジェームズに、シリウスは黙って柳の方を目で示した。そこには、まっすぐに柳に向かって飛んでいくスネイプの姿があった。 「…いよいよだな」 「おぅ」 打たれても死にゃあしないように、防御魔法をかけてある。無傷とまではいかないだろうが、骨がどうこうなるような重傷は負わないはずだ。 ビシィッ!! 「っぎゃぁぁぁぅおわぁぁぁぁぁぁああああっ!!!?」 見事にはたかれたスネイプは、綺麗な曲線を描いて、狙い違わず今まさに“パーティーの真っ最中”であろう舞台へと吹っ飛んでいった。 「あっは!ビンゴ!」 「…カツラがとれた課長みたいな声だな」 手をかざして行方を見守っていたシリウスに、ジェームズは「今のは部長クラスだろ」と言って手をとった。 「行こうぜ。これからが本番だ。ムーニーとワームテールがうまくやっているといいんだが」 「……うぉぉわわわぁぁぁぁああああっ!!!」 『!?』 唐突に聞こえてきた悲鳴に、豪華な食事を楽しんでいた生徒たちが一斉にそちらを見やる。 「っし!そのまま飛び込め!!」 「やった!」 こっそりと開け放していた窓からうまいことスネイプが飛び込んだのを見て、ピーターが歓声を上げる。 「なっ…なんだ!?」 「カボチャ男爵…?」 「人だろ!」 先ほどシリウスがかぶせたのは、ハロウィンにふさわしくJack 0' Lanternだ。はたから見たら、あれが誰なのかすらわからないだろう。 どかんっ!! かくして窓から飛び込んできたスネイプが、天井で揺れていたカボチャに勢い良く突っ込んだ。 ぼばばばばばばばばばばっ!!! 「きゃーっ!!!」 「うわぁぁぁっ!!」 それと同時にカボチャが大爆発を起こし、挙句なにやらねばねばとした液体をホール全体にばら撒いた。 「…ダンブルドア!」 「うむ。今年も来たようじゃの…とびっきりの悪魔が」 言いながらダンブルドアは席を立つと、マダム・ポンフリーに「セブルスを頼みますぞ」と言ってホールの外へ向かって歩いていった。 「え?セブルス?どこにいるんですの?」 「飛び込んできたカボチャ男爵ですよ。床に転がっています」 言いながらマクゴナガルも席を立った。ダンブルドアの後を追うようにして出て行く。 「ジェームズ!ダンブルドアが動いたぞ!!」 それを窓の外から見ていたシリウスが、猛スピードで下降しているジェームズに向かって叫んだ。 「了解……だっ!!」 ゴゥッ。 突風が吹き荒れ、地面に仕掛けていた罠が続々と作動する。 「きゃぁっ、落とし穴よ!!」 「おいっ、中に竹やりが立ってるぜ!つかこの竹は一体どこから!?」 「純日本産って書いてあるぜ…っていてぇぇっぇぇぇ!これ飛び出してくるとかアリ!?」 「巨大ミミズが襲ってきやがったーっ!!」 「おい誰か食われてるって!!口から足生えてるって!」 「うゎああああ沈むっぅぅぅうぅ!!ネバーエンディングストーリーの映画みたいに沈みきってしまうぅぅ!!」 「なんでそんなわかりにくい例えしてんだ…ってうわぁオレも沈んでいくぅぅぅぅう!!」 「あ、黒猫…ってこの猫、目が3つあるし!牙長いしきゃぁぁぁぁっ!!」 「ウサギ用の罠が!そして引っかかったオレの馬鹿!!」 地獄絵図のような状態の中で、ジェームズは素早く視線を走らせて叫んだ。 「こっちだ!!」 「! ワームテール、早く僕の手につかまれ!」 「ぅっ…わ……!」 胃がひっくり返りそうな衝撃と共に、体が宙に浮く。ジェームズのホウキにリーマスが捕まり、そのリーマスの手にピーターが捕まっている。操縦者がジェームズでなければ、たちまち地面に叩きつけられていただろう。 「開けとく窓、ぴったりだったぜ。さすがだ…よし、救出完了…っどりゃー!!」 さらにその状態でホウキから片手を離すと、ジェームズは空に構えて杖を大きく振り上げた。 ぱーんっ…… 「! よし」 大きく打ちあがった花火を見て、シリウスは一人校舎の裏手で大きく杖を振りかぶった。 「アクシオ……来いっ!!!」 物体を呼び寄せる呪文を、特大の力で発動させる。途端、地面がゴゴゴゴゴゴゴゴと激しく揺れだした。 「っし…あとは任せたぜ……!」 「! ダンブルドア、ブラックがいましたよ!」 「やべぇっ!!」 ここで自分が捕まったら、いたずら仕掛け人としての名折れだ。立てかけてあったホウキを掴むと、シリウスは猛スピードで夜空へと向かって飛び上がった。 「……きた!」 「プロングズ」 「…ああ、わかってる」 シリウスが力の限りを使って呼び寄せたもの。それを… 「ウィンガーディアム レビオーサ!!」 物体を空中に浮かせる呪文。その対象を最大限に拡大して、飛来してきた“それら”を浮かばせた。 「わっ…綺麗……!」 今日まで地面の下に隠し続けた、巨大カボチャで作ったJack 0' Lanternの群れ。それら全てに明かりが灯っている様は、恐ろしく綺麗で恐ろしく不気味だった。 「さぁ、みんな、選ぶがいい!!!」 いまだ作動し続けている罠に喧々轟々と叫んでいる生徒たちに向かって、リーマスが拡声呪文を使って呼びかけた。 「trick or treat!僕らにお菓子をくれるかい?」 「ふざけるなーっ!!!」 「降りて来い!オレのローブを穴だらけにしやがって!!」 「さっきから友達が見当たらないんだけど!ミミズに食われてたらどうする気!?」 「ああ、残念だ、交渉決裂のようだよ。…プロングズ?」 にやり、と笑ったリーマスに、ジェームズも同じく深い笑みを返す。ピーターは、なんとかホウキによじ登って満足そうな笑みを浮かべていた。 「イタズラするしかないなっ!!!」 どばんっ。 鈍い爆破音と共にJack 0' Lanternが弾けとび、中から飛び出してきたのは… 「クソ爆弾が降ってきたぞーっ!!!」 「中に避難しろっ!!」 「そうはいかないんだな、コレが」 にやりと笑っていったのは、シリウスだ。杖を大きく一振りすると、入口付近に火のアーチが立ちふさがった。 「おい…やべえってこれ…」 「あ……」 べべべチャチャぐチャぐちょぼばばばばばべちゃんっ。 なんとも鈍い音が響いた後、あたり一面に激臭が立ち込める。 「…いたずら完了!」 パンッ。 そんな中、頭上では手の平を打ち合わせる軽い音が響いていた。 「…くそっ…ポッター…ブラック…許さん……!」 「まだ動いちゃだめって何度言ったらわかるのですか!」 「放せ、我輩は復讐に…くそっ、くそぉぉぉおおお!!」 一方、医務室では不幸な少年の絶叫が響き渡っていた。 「…私、毎年思うんですけれど」 「なんじゃ?」 「ダンブルドア、あなた本気であの悪魔たちを捕まえようとしていらっしゃいますか?」 「ほっほ…もちろんじゃよ」 ---------------------------------------------------------------- BACK |