初めましての挨拶





「…え?」
「だから、私も今日から東方司令部の一員!お姉ちゃんと同じ職場なの!」
「それは…どういうこと?」
「国家錬金術師の資格をとりました!あと、軍部への入隊も済ませてきた」
「こっ…」
絶句したホークアイを見て、は恐る恐る拝名書を見せた。
「…蒼刃の錬金術師…?」
それを読み上げ、ホークアイは溜め息をついた。
「…本当みたいね」
「よろしくお願いします、ホークアイ中尉!」
びしっ、と敬礼を決め、にこりと笑って言う。それを聞き、ホークアイは観念したように返事を返した。
「…じゃあ行くわよ、少佐」
「はい!」
元気に返事を返し。
は、姉の後を追って走り出した。





がたんっ!!

…東方司令部の面々は、総立ちになった。
「い…今何と言ったんだね、中尉…」
震える声で聞き返すロイの顔からは、いつもの余裕の表情は読み取れない。
「…ですから、このこは。階級は少佐、国家錬金術師の資格を持っています。」
そこで一息つき、言葉を続ける。
「…そして、私の妹です。」
「初めまして、・ホークアイです!よろしくお願いします!」
ぴょこんっ、と頭を下げ、挨拶をする。19歳というにはあまりにも幼い風貌を持つ彼女は、軍服を着ているというより軍服に着られているような印象を与える。さらに、輪をかけて不可思議なことがあった。
「えーと…少佐?」
恐る恐る声をかけたハボックを見て、は人懐こい笑みを浮かべて言った。
でいいです。年齢も下ですから、敬語とか使わないでくださいね」
「そーか?んじゃ、。お前さん、なんで水筒なんか下げてるんだ?」
順応の早いハボックに言われ、指し示されたのは腰から下げた水筒。確かに、軍服とミスマッチなことこの上ない。
「私も気になるわ。、教えてもらっていいかしら」
ホークアイの言葉もあり、は快く承知した。
「私の錬金術は、水を使います」
そして、ポケットから錬成陣の書かれた手袋を取り出す。ロイのものと違うのは、その手袋は指先がないタイプのものであること、さらに錬成陣は青色で書かれていた。
「よいしょ、と…」
何が始まるのかと興味津々の面々を視界の端に捉えつつ、は手袋を両手にはめた。
…とりあえず、宣戦布告と行こうじゃないか。
「じゃ、いきます!」
水筒を開け、床にそれをぶちまける。
「えいっ!」
ばしぃっ、と錬金術特有の火花が散り、水は瞬く間に蒼い刃と化した。

ひゅっ!!

『!!!』
それは、真っ直ぐにロイのほうへと向かっていく。
「大佐、あぶ…!」
ホークアイの声がかかるその前に、ロイは構えた右手を小さくこすった。

じゅぁあっ!!

「…!!」
ロイの焔との蒼刃がぶつかり、焔に負けた水の刃は水蒸気と化して大気中に溶け消えた。
「…突然何をす」
「すっげぇぇえええぇぇ!!!何それ!?水を刃にできんの!?」
「いえ、それよりいきなり大佐を攻撃するなんてすごい肝が据わってますよ!!」
「ふむ…今までいなかったタイプですね」
「な、もう一回見せてくれよ!!」
ロイが文句を言おうと口を開いた瞬間、一気に東方司令部の面々がを取り囲み、ロイの声は届かなかった。

だが。

!!!」
場を一喝する、ホークアイの一声。賑やかだった場は、水を打ったように一気に静かになった。
「あなた、何をしたかわかっているの?大佐を攻撃するなんて、何を考えているの!」
「…ごめんなさい。でも、私が錬金術を試そうとしたときに大佐は止めなかったわ。それは同時に、あらゆる危険性をも認めた上での許可でしょう?私一人を責めるのは間違っているわ」
、あなた何を…!」
「いや、待ちたまえホークアイ中尉」
さらに何かを言い募ろうとしたホークアイを制し、ロイが一歩前に出る。
「…蒼刃の、と言ったか」
「はい」
目の前にロイが来ても、は全くひるまなかった。視線をそらさず、身長的にロイを見上げる形になってもひけをとらなかった。
(…いい目をしているな)
それを見たうえで、ロイは小さくほくそえむ。またおもしろい人材がきたものだ。
「君の言うとおり、今回のことは私にも非があったと認めよう。だが、今後君と私の立場は上司と部下だ。それをわきまえて行動するように。以上だ。わかったか?」
「Yes, sir.」
ぴっ、と敬礼をしては返事をした。自分とて、ここで首にされたらたまったものではない。
「あぁ、それと」
立ち去り際、ロイはくるりと振り向いて言った。
「君の錬金術、あれはまだまだ発達途上のものだ。あれしきで焔の錬金術師に勝てると思ったら」
そう言い、不敵に笑って言葉を続ける。
「大間違いだよ」
「……っ!!」
かっ、と顔に血が上る。馬鹿にされた。
は、逆上しそうになる自分をなんとかなだめた。落ち着け。あの大佐の鼻を明かすような錬金術を編み出してやればいい。
「…ご指摘、ありがとうござい、ます…」
小さく呟いたを見て、ロイは満足そうに自席に戻った。
「さぁ、新しく仲間が増えたからといって仕事が減るわけじゃない。みんな職務にもどれ」
「へーい」
「やれやれ」
それぞれ思い思いの台詞を呟きつつ、自席へと引き上げていく。ぽつん、と取り残されたは、横に居るロイに仕方なく問い掛けた。
「…あの、私は…」
「ん?そうだな…とりあえず」
言って、の両手にどさりと書類を置く。
「…あの、大佐…?」
「とりあえず、この書類をよろしく頼むよ」
とても“とりあえず”でどうにかなるような量ではない。文句をなんとか押しとどめ、は了解の意を示した。
「…わかりました」
「じゃあ始めたまえ」
姉を守ろうと決意して入った軍部。…当初の目的以外にやることが目白押しになりそうな予感に身震いしつつ、は用意された自席へと向かった。




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