「大丈夫ですよ、手荒なまねはしませんから」
「は、はひ…」
なんかもうものすごぉくにっこにっこしながら言われても、信じればいいのか疑えばいいのかわからない。身構えていると、不意に後ろからがしっと両腕を掴まれた。
「へ?」
「さあ、お嬢様」
「お着替え、いたしましょう!」
「え、えええええええええええええええ!!?」
後ろから手を掴んでいたのは、メイドのような人たちだった。助けを求めるように白馬に視線をやると、
「家のメイドですから、心配要りませんよ」
というなんの助けにもならないコメントをもらった。むしろ不安を煽る。
「さすがに着替えを僕が手伝うと、悪戯じゃすまなくなりそうですからね。大人しく待っています」
「ま、え、えええええ!?」
結局ずるずると引っ張られ、はカーテンの裏側へと引きずり込まれた。



「あのー…本気でこれ、着るんですか?」
「ええ、勿論!素敵なデザインでしょう?今日のための特注ですのよ!」
「こういうのの特注ってすごい高いんじゃあ…」
「そんな細かいことは気になさらないで。さあ、お着替えが済んだら化粧もしましょうね」
「髪もアップしましょう」
「爪の手入れも…」
「ちょ、待ってくださいいいい!!」



「……あの〜、白馬先生?」
「おや、着替えが済んだんですか?」
カーテンの隙間から顔だけ出しているの元に、白馬が待っていましたとばかりにやってきた。
「さあ、そんなところにいないで、どうぞこちらへ」
「あ、ちょ、待っ…!」
抵抗しようにも捕まるところもない。白馬に手を引っ張られ、ずるずると明かりの元へと引きずり出されてしまった。
「……見事、ですね。僕の見立ては間違っていなかったというところでしょうか…」
真っ赤になって立ち尽くしているに、白馬がゆっくりと言葉を紡いだ。
「あの…悪戯、って……」
「無論。僕が用意した、このウェディングドレスを着ていただくことですよ」
臆面もなくいわれ、言葉に詰まる。
…もはや、何から不満を唱えればいいのかもわからない。
(でも…真っ白で、すごく綺麗。こんなすごいの用意してくれてたんだ……)
くすぐったいような、嬉しいような。
そんな不思議な気持ちに、なんとなく頬も緩む。
「気に入っていただけましたか、お姫様?」
「おひっ…あ、は、はい!その…ありがとうございます、私なんかのために…」
「“私なんか”じゃないですよ。貴女だからこそ、です」
言うと、白馬がひょいっと簡単にを抱き上げた。
「!!?」
「花嫁衣裳が、何故真っ白だか知ってますか?」
「え……?」
唐突な問に、答えを見出せず黙って首を振る。すると、白馬が楽しそうに笑って言った。

「貴方色に染まりたいから、だそうですよ」

そう言うと、の前髪をふわりとかきあげて額にキスを落とした。
「は、は、白馬せんっ……!!?」
「そういえば、結婚前にウェディングドレスを着ると嫁ぎ遅れる、なんて面白い迷信も日本にはありますね」
の抗議などどこ吹く風で、白馬がさらりと続ける。
「このままゴールインしちゃいましょうか?」
「ちょ、ま、あ、そ、と…!」
真っ赤になって口から泡でも吹いてしまいそうなに、白馬が笑いながらそっと降ろした。
「すみません、悪戯が過ぎましたね。…この続きはまた今度、ということにしましょうか?」
(また今度っ…!?)
既にオーバーヒート気味だったは、その言葉を聞いて、今度こそ本当にその場にへたりこんでしまったのだった。

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…Happy Halloween !!