「おい友雅っ、さっきから使ってるこの妙な力はなんなんだ?」 「…今更聞くかね」 横に並んだ友雅に、天真が問う。 「う…うるせーなっ!詩紋も気になるだろ?」 責任を転嫁しようとするが、詩紋はただ困ったように呟いた。 「え…と、今日の昼間聞いた、友雅さんの話を元にすれば…」 言いにくそうに、言葉を続ける。 「…多分、ボクたちが八葉なんじゃ…ないかな?」 「俺たちが…八葉……?」 襲い来る水の攻撃を避けながら、天真が呆然としたように呟く。 「…八葉は、神子の元に集まるんだろ?じゃあ神子は誰なんだ」 「もうわかっているのだろう?」 ただ、それを認めたくないだけでね。 水柱を斬り捨てながら言った友雅の言葉に、天真がへと視線を注ぐ。 「まさか……」 地面に座り込んでいる少女の体を、淡い光が包み込んでいる。…まるで、守るかのように。 『小賢しい…神子さえいれば八葉に用はない』 ドウ、と水の量が一気に増える。あれに飲み込まれたらひとたまりも無いだろう。 「……っ、あ、」 硬直していたの目にも、それはわかった。 慌てて立ち上がると、友雅たちの元へと向かう。 「、来るな!」 「駄目だよ!!このままじゃみんなが…!」 目の前に、水からかばうように立ちふさがる。 「もうやめて!あなたは私が…神子が狙いなんでしょう?だったらみんなに手を出さないで!!」 『…ならば、我と共に来るか…神子よ』 「…っ、それは……」 「殿、鬼の言葉に耳を貸してはいけない!」 友雅の言葉に、アクラムが眉をひそめる。 『…邪魔だ。八葉は消えろ』 言って、友雅へと水の刃を向ける。 「やめて…やめてーーーーーーっ!!」 ゴッ。 『…!これは……』 の声に応えるかのように、泉の中から真っ白な龍が姿を現す。 『…くっ。出直すとするか…龍神の神子よ、お前は私のものだ……』 「え…?」 引いてくれるのか、と思った瞬間、体が宙に浮いた。 「なっ……!?」 「くっ…殿の力に呼応して、龍神が姿を現したのがまずかったか…!」 恐らく龍神は、神子を京へと連れて行くつもりなのだ。 (いや……これが藤姫の望んでいた筋書きではないのか…?) 自分が赴き、神子を連れ帰る。 今まさに、その通りに事が運ぼうとしているではないか。 (ならば何故…) 何故、自分はこうも抗おうとしているのだろう? 「…天真、詩紋」 「なんだよ友雅、今それどころじゃ…!」 「京には、殿が必要だ」 「! おい、まさか…」 じっ、と。 視線をそらすことなく、真っ直ぐに友雅の瞳が天真を、詩紋を捕らえる。思わず言葉を飲み込むほどに、真摯な瞳だ。 「そして、君たちの力も必要だ。…巻き込んでしまって、申し訳ないと思っているが…君たちのことは、必ず戻すと約束しよう。だから、協力してもらえまいか。…今ここで下手に暴れては、余計に危険なのだよ」 時空の狭間。 昼とも夜ともつかぬ、あの空間。 声にいざなわれなければ、自分とて未来永劫あの中へ囚われたままだったかもしれないのだ。龍神の導きがあるのなら、安全にたどりつくくらいはできるはずだ。 「…殿を危険にさらしたくないのは、私とて同じなのだよ。わかってくれるね?」 彼女が神子でなければ良いと。 巻き込まずに済めばよいと願ってしまった結果、後手に回る羽目になった。 同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。 「…わかった」 「天真先輩!?」 詩紋に向かって、天真が微笑む。 「こいつ一人に、のこと任せらんねーだろ?」 「……うん、わかった!」 「ありがとう、二人とも。…では、行こうか」 「指図すんなっつーの!」 とん、と。 地面を蹴ると、いとも簡単に体が浮き、の元へたどり着く。 「天真くん、詩紋くん!?それに友雅さん、これって一体……」 「すまないね、殿。…君の力を、貸してほしい人々がいるのだよ。」 「友雅さん…」 京の話は、友雅から既に聞いている。 自分が神子だというのは未だに信じられないが、それでもできることがあるのなら、力になりたい。 「わかりました。…私、行きます」 ゴッ。 その言葉を合図にしたかのように、気の流れが動き出す。 そのまま一気に、泉から吹き上げている水柱の中へと、たちは飛び込んでいった。 「おいこら友雅ぁぁぁあっ!」 「…いや、すまない。こんな予定ではなかったのだけれどね……」 「暢気なこと言ってる場合じゃないですよーっ!!」 「…スカイダイビングってこんな感じなのかなー」 「詩紋も現実を見ろ!!パラシュートがついてない時点でアウトだろ!!」 真っ逆さまに落下しながら、喧々囂々とやりあっていても埒が明かない。あと数十秒で地面にどかんだ。 「……龍神も随分手荒な歓迎をするものだと思ったが…恐らくは、鬼の力が強くなっているせいだろうね。龍神の力そのものも弱まっているのだろう」 「暢気に分析してる場合じゃないですってばーっ!!」 (どうしよう…このままじゃっ…!) ふ、と視線を上げる。 …そこには、見たことの無い町並みが広がっていた。いや、大河ドラマなんかで見たことはあるかもしれないが…いわゆる、古の京都。そんな景色だ。 (…私が守るのは、あそこに住んでいる人たち。) どんどん距離が縮まってゆく。まだ天真たちが遣り合っている声が聞こえるが、不思議とに焦りはなかった。…どうすればいいのか、『知って』いるのだ。 (……龍神さま。私、頑張るよ。頑張るから…まず、今、大切な人たちを助ける力がほしい。お願い、力を貸して……!) 「え…?」 「これは…」 落下速度が、急速に落ちていく。見えない力が、下から支えているかのようだ。 「……っ!!」 「殿!!」 神子としての自覚も浅いうちに力を使うのは、危険だ。 とはいえ、今彼女の祈りが途絶えてしまっては、何のために遙かな時空を超えたのか、意味がなくなってしまう。 (くっ……!) 何も出来ない自分が、腹立たしい。 ただそっと肩を抱き、その背を支えることしか出来ない自分が。 幸い、人目にはつかない場所へと降り立つことが出来た。 力を使い果たして眠っているを抱き上げ、友雅が先に立って歩き出す。 「土御門はこちらだ。私から離れてはいけないよ」 「へいへい」 「はいっ」 幾刻もせぬうちに、土御門が見えてくる。門をくぐると、全てを見ていたかのように藤姫が出迎えた。 「友雅殿!!ご無事で…それに神子さま、八葉の方々も!!」 「……説明は不要のようですね。まずはこの方を休ませる場を」 「奥の部屋へお連れしてください。既に万事整っております。八葉の方々はこちらへ」 「…俺らのことだよな?」 確認するように言った天真に、藤姫が微笑む。 「はい。…お名前を…お話を伺いとうございます。遠路遙々、よくぞお越しくださいました」 「藤姫様!!その…目を覚まされたのですが、少し目を離した隙に…!」 慌しく駆け込んできた薬師の言葉に、藤姫がさっと顔色を変える。 「神子様に何かあったのですか!」 「それが…私にもさっぱり…」 「の部屋はどこだ!!」 立ち上がった天真を先導するように、友雅が駆け出す。力の使いすぎは危険だと感じたが、やはり間違ってはいなかったのだろうか。彼女の身にどんな大事が起きたのかと考えると、胸が潰れそうになる。 「殿、失礼するよ」 不躾だとわかってはいたが、事態が事態だ。御簾をかきわけ、寝所を覗き込む。 「と…友雅、さん……」 「………………」 そこに、いたのは。 「え…お前、まさか……なのか?」 後ろから覗き込んだ天真が、驚きを隠さずに言う。 「う、うん…なんか、気がついたらこうなってて…」 「…力の、使いすぎに因るものか。」 なんとか絞り出すようにそれだけ言うと、ようやく追いついた詩紋がひょいと覗き込む。 「え、ちゃん!?」 「……やれやれ。全く、ようやく私が元の大きさに戻れたというのに……これでは姫君と戯れることは出来そうにないね」 ひょい、と。 …そう。4つか5つの童程度に幼児化してしまったを、友雅が抱き上げる。 「と、友雅さんっ!」 「君がよくこうしてくれただろう?」 「おいこら友雅!たわむれるってなんだ、何する気だったんだ!」 「天真先輩っ、つっこむのはそこじゃないよ!!」 喧騒を抜け出すように、を抱き上げたまま部屋を出る。藤姫にも報告しなければならないだろう。 「…まあ、これはこれで愛らしいけれどね。君が無事なら、良かったよ」 「これ…無事って言うんでしょうか……」 友雅の腕にしがみつきながら、はため息と共に呟いた。 …京での日々も、安寧なものには程遠そうである。 ---------------------------------------------------------------- Special thanks for your reading !! ※上記のイラストは、心の友と書いて電波仲間と読むトオル嬢にめちゃめちゃ無理を言ってゴリ押しして描いてもらったとてもとても有難く貴重極まるイラストです。「挿絵が欲しい」という夢を叶えてくれてありがとう!!もう思い残すことはないぜ…!(京編は) BACK |