「…。どういうことか、説明しろよ」 「あ…え、と……」 人形だとか一人芝居だとかそういった理由が脳内を通り過ぎていくが、そんな誤魔化しが通じる相手じゃあないことは自分が一番よくわかっている。泣きそうな表情で友雅を見やれば、嘆息交じりに呟いた。 「…致し方ないよ。彼にも事情を説明し、協力してもらおう」 「ごめんなさい…友雅さんっ……!」 今にも涙を流しそうなの頬に、友雅がそっと手を添える。 「案ずることはないよ、殿。見られたのが殿の知人でよかった。少々野蛮な感はあるが、殿のご友人だ。言語の理解くらいはできるだろう」 「オイコラ待てそこのちっさいヤツ」 むんずとつまみあげ、天真が半眼で睨みつける。 「何に易々と触ってんだよ!…ってツッコミどころはそこじゃなくてだな、」 「やめて天真くん!」 ひょい、とが天真の手から友雅を取り返す。にそういわれては、天真も黙るしかない。 「……やれやれ、本当に野蛮だな。まあ良い、まずは名乗ろうか。私の名は橘友雅という」 「…天真だ。森村、天真」 友雅の優美な物言いに怯んだように一瞬つまってから、天真も名乗る。睨みつける眼光はそのままだ。 (…なんか、根本的なところが合わなさそうなんだけど……) こっそりため息をついてから、は順を追って天真に説明を始めた。 「…つまり、要約してまとめるとだ。友雅は今と暮らしてるってことか!?」 「いや、まとめるところおかしいんだけど天真くん」 結局、授業を1時間丸々潰して説明する羽目になった。(友雅が大きくなることは、言うと面倒なことになりそうなので伏せておいた)あとでノート借りなくちゃ…と頭の隅っこにメモをしておく。 「いや、だってそこ重要だろ!?」 「そこ以外にもっと注目すべきところあったでしょ!とにかく今は神子様を探さなくちゃいけないの!!」 「…わーってるよ。けどよ、手がかりとか何もないんだろ?」 「そうなんだよねえ…」 うーんと唸り始めた二人に、友雅が「そういえば」と声を上げた。 「八葉の話はしたかな?」 「…はちよう?」 「なんだ、それ」 自分自身、今まで記憶から抜け落ちていた。の膝の上で足を組みなおし(天真の表情が険しくなった)、友雅は扇を広げて続けた。 「神子を守る、八人の者がいるらしい。神子が異世界から来るというのなら、もしかしたら八葉もこの世界にいるのかもしれないね。もしもそうだとしたら、その八葉から神子を辿ることも可能かもしれない」 「…でも、その八葉も、手がかりないんですよね」 「まあ、そうなんだけどね」 の言葉に、苦笑する。…その瞬間、ふと、胸が熱くなった気がした。 (……なんだ?) そ、と手をあててみるが、既にその感覚は消えていた。…気のせいか、と視線を戻す。 「…天真?どうかしたのかい?」 「あ、いや……」 しきりに左腕の上部を気にしている天真に、友雅が訝しげに声を掛ける。 「なんでもねえ。気のせいだ」 そんな二人に、が首をかしげる。…何かあったのだろうか。 「二人とも、大丈夫?」 「いや、なんでもねーよ。それより、本当に何の手がかりもないのか?」 天真が、に(というより、の膝の上にいる友雅に)向き直る。 「…神子と八葉は惹き合うと聞いたが。これは情報になるかな」 「つってもなぁ……」 肝心の神子と八葉が見つからないのであれば、そちらで勝手に惹き合っていたとしてもわかりようがない。 「とりあえず、一旦教室に戻らない?さすがに次の授業まで出ないわけにはいかないし」 「ん?ああ、そうだな……」 友雅をそっと鞄に招き入れる様子を面白くなさそうに見ながら、天真も腰を上げる。 「…おい、友雅」 「なにかな」 天真の声に応え、友雅がひょいと鞄の口に手をかけ、顔を覗かせる。 「神子とか八葉とか、俺には関係ない」 「天真くん!」 突き放した言葉を言う天真に、が声を上げる。 「……関係ない、けど」 一旦言葉を切り、すぐに続ける。 「お前がいつまでもと暮らしてるのは納得がいかないし許せない!だから協力してやる!!」 びしっ、と友雅を指差すと、天真はまるで果たし状でも読み上げるかのように言った。 「……ああ。感謝するよ、天真」 くすり、と。 小さな体で余裕の笑みを向けられ、天真がぐっと詰まる。 「…以上!じゃあまた、放課後な!」 先頭を切って戻っていく天真の後に続きながら、が鞄を抱きしめて言う。 「…わかりにくいと思いますけど、」 「ああ。あれが彼なりの優しさなんだろう」 を見上げて言った友雅に、笑みを浮かべて返す。 「はい。やっぱり、友雅さんですね」 「!!何してんだ、早く行くぞ!!」 「待ってー!!」 鞄を揺らさないように気をつけながら、小走りになって天真の後を追う。 鞄の中で揺られながら、友雅はまた、微かに胸が熱を持っていることに気付いた。 (……なんだ?) 手を触れても、熱は感じないし、傷があるわけでもない。 首を傾げて、鞄の揺れに身を任せる。 …ぽぅ、と。 鎖骨の間で輝く宝玉には、未だ気付かず。 ---------------------------------------------------------------- BACK |