「…うぜぇ」 「口が悪いな、松田クン」 「うざいもんはうざいんだから仕方ないだろーが。のけ」 「やだー」 「…ドタマに穴開けられたいのか」 「すみませんでした」 両手を上げて萩原が身を起こすと、松田は面倒くさそうにぱんぱんと膝をはたいた。 「男の膝枕なんてなにが楽しいんだよ」 「ノンノン。“男の”じゃなくて“松田の”。松田だからいいの」 「…何だよソレ」 片眉を下げ、呆れたような苦笑を微かに浮かべる。その仕草が松田らしくて、萩原はくしゃりと髪をかきあげることで自分の笑みをかき消した。「なにがおかしいんだ」と聞かれたら、言い逃れできる自信がない。 そのまま窓の外に視線をやると、茶色の葉が目に映った。不安げに風に揺れている様を見て、萩原がぽつりと呟く。 「…なぁ。もうすぐ冬だな」 「あ?あぁ、そうだな。もう11月だからな…」 同じく視線を窓の外に向けた松田の隙をつき、萩原は再びゴロリと松田の膝の上に転がった。 「おい…」 「サービスしてよ。俺お疲れ気味なの」 「…ったく、好きにしろ」 結局は萩原に押し切られるのだ。わかってはいても、だからといって最初から言いなりになるのは腹立たしい。 (…冬か) 閉め切った窓の向こう側では、寒風でも吹いて葉を鳴らしているのだろうか。その音は、こちら側へは届かない。 (あ) ひらり、と。 視界にあった葉が、風に巻かれて姿を消した。 「ひぃらりくるり…」 「…起きてたのか」 自分の膝の上から聞こえた声に、多少驚いて返す。 「ひぃらりくるり、舞ってゆく。ひぃらりくるり、墜ちてゆく。…人の一生なんて、葉みたいなもんだ」 「おまえ、なに言って…」 だが、松田がその意味を問おうとしたときには、微かに寝息が聞こえてきていた。半分、寝言のようなものだったらしい。 (…ひぃらりくるり、か) ひらひら舞って、くるりと回って落下する。…最後の一瞬まで、墜ちるのを拒むように。 「…なぁ、萩原」 おまえもそうありたいと、思ったのか? 「…俺もだ。」 生と死が背中合わせの現場。すぐそばに死があるとわかってはいても、背中に目のついている人間はいない。 「…最期の、一瞬まで。」 ひぃらりくるり、ひぃらりくるり。 地に墜つ刻は、最期の一瞬までを抗いながら生き抜いたとき。 「そうだろ?萩原…」 …やがて二つになった寝息は、静かな部屋にゆっくり穏やかに響いた。 ひぃらりくるり ひぃらりくるり …葉はやがて皆、墜ちてゆく。最期の一瞬まで、くるりと回って抗って。 ---------------------------------------------------------------- BACK |