シェスタ・シェスタ





「ハウルー?」
呼びかけても返事はない。聞こえていないはずはないのだが、またからかわれているのか…それとも、城の中にいないのか。大した用事はなかったのだが、いないことが気がかりでソフィーは本気になって捜索を始めた。
「ハウル?いないのー?」
自室はもちろん、風呂場、トイレ、扉の向こうにも声をかける。それでも見つからず、仕方なくもう一度自室へ戻ってベッドの下なんかをのぞき込んでみた。いたらいたでおもしろいが、生憎そこにもいなかった。
「…そういえば」
城中を歩き回っていたのに、マルクルにもヒンにも出会っていない。そう広くない城のこと、かくれんぼでもしていない限りそんなことはないはずなのだが。
「あ、ひょっとして…」
なぜもっと早く思いつかなかったのだろう。ぴん、と閃き、ソフィーは急いで階段を上った。







「やっぱり、ここだったのね」
見ているだけで、自然と笑みになる。なんとまあ気持ちよさそうに眠っているのだろう。
「ハウル、ハウル!風邪引くわよ」
…城の一角にある、小さな庭。普段はマルクルとヒンが遊び回るのに使われているが、たまに今日のように昼寝場所として使われることもあるのだ。ハウルの気が向けば、テーブルを出してお茶会を開くこともある。
「マルクルとヒンも…あーあ、なんて格好してるのよ、ヒン」
ひっくり返って腹を見せて寝ているヒンを、指でつんつんとつつく。すると、くすぐったそうにヒン、ヒンと鼻を鳴らした。
「んー…ソフィー…?」
まだ寝ぼけ眼ではあるが、うっすらと目を開けたハウルに、その頬をぺちぺちと軽く叩く。
「ほら、風邪引いちゃうよ?中に入ろう」
「んー…まだ寝る…」
ごろん、と反対側へ寝返りを打ったハウルに、やれやれとため息をつく。まったく、子供みたいだ。
「仕方ないわね…とりあえず、マルクルとヒンだけでも…」
中へ入れようか、と立ち上がりかける。途端、何か強い力に後ろから引っ張られて倒れ込んだ。
「きゃあっ!?」
「…ソフィーも寝よう」
先ほどまで背中を見せていたはずなのに、いつのまにかしっかりと腕の中におさめられている。自分を引っ張ったのは、ハウルの腕だったのだ…ということを理解するのに、少々時間がかかった。
「ちょっ…もう、ハウル!」
「大丈夫大丈夫。絶対風邪なんか引かないから」
「絶対…?」
なにがしかの魔法でもかけているのだろうか、それとも根拠のない自信か。どちらにせよ、こうなってしまった以上はどうしようもない。
「しょうがないなぁ…」
「おやすみ、ソフィー」
ハウルの髪が鼻にかかってくすぐったいが、それはこの際我慢することにして。…今は、この安らかな昼寝を楽しむことにしよう。
「…ん。おやすみ、ハウル…」




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