自分はどうしようもない愚か者で、またそのことに自覚もあった。 食事をするのは死なないためで、内容にこだわったことはない。(マルクルには悪いことをしている、と思う)部屋が汚いのは、全てに固執していないから。何かを必要として探したことなんて、一度もない。必要だと思ったことがないからだ。どれだけ汚かろうが知ったことではなかった。自分が綺麗になれれば、風呂が見るに耐えないほど汚くても構わなかった。 (…僕は、なぜ生きているんだ?) 風呂で鼻まで湯に浸かりながら、ハウルはゆっくりと瞬きをしながら考えた。ふとした瞬間にそんな疑問にとらわれるのは、いつものことだ。そうして出てくる答えも、いつも同じだった。 「…待っているからだ」 あの声の、持ち主を。 それが、今の自分の生きる理由。それ以下でも、それ以上でもなく。 ないのだ、固執しているものが。 ないのだ、守るべきものが。 ないのだ、自分が生きてゆく理由が。 「…生きるのに理由はいらないって言うけど」 それでも人は、求めずにはいられないのではないだろうか。 生きる理由を、生きる意味を。 …そんな風に生きてきた僕の世界は、たった一人の少女によって崩壊した。呆れるほどに、呆気なく。 「ソフィー!」 「なぁに?ハウル」 名を呼べる存在がいて、名を呼んでくれる存在がいて、 「花畑に行かないかい?」 「今洗濯してて忙しいのよ。暇ならハウルも手伝って頂戴」 今ここに在る僕を、必要としてくれて、 「ハウルさん、こっちお願いします!」 自分を慕う存在が確かにいることに気付かせてくれて、 「ソフィーは人使いが荒いなぁ」 …そして。 「ふふ、洗濯が終わったら花畑に行きましょ。お弁当も用意するから」 その笑顔を守りたいと、心から思ったのだ。 そう。君が僕の、魂の在り処。 生きる理由を与えて、生きる意味を教えて ---------------------------------------------------------------- BACK |