しゃんっ、しゃんっ。 叩きつけられ、一瞬で消えゆく儚い命。空から降ってきた星の子は、地上では生きることができない。それでも生き延びようと水上を必死に走るも、やがて蒸発して消えてゆく。 「………。」 じっとそれを目で追っていた少年が手を伸ばし、今まさに降ってきた星の子を、こくん、と飲み下した。それと同時に、自身から心を取り出した、その時だった。 …声が、聴こえた。 気付いた次の瞬間には声の主は消えてしまっていたが、心の奥まで響く…優しい、優しい声だった。 「なぁ、今、なんか聞こえなかったか?なんつったか…えーと…」 手の平でぼうぼうと燃えている、たった今契約を結んだ悪魔のセリフに、少年も小さく頷いて言った。 「うん。うん…“待ってて”って、そう、言ってた。“未来で待ってて”…って。」 一瞬だったけれど、耳に残った優しい声が忘れられない。心の奥底の琴線をかき鳴らされたような…あの、胸が疼くような衝動。 「待ってる…」 きっと、きっと、僕を見つけに来てね。僕も、ずっと、きっと、君を待ってる。 「おーいハウルー、どうかしたのか?」 「…いつまで、待てばいいのかな」 サリマン先生に出会った。魔法学校を卒業した。名を知られるようになって、面倒ごとも増えた。ジェンキンスを名乗り、ペンドラゴンを名乗り、自由に生きていくのに必要なだけ名を持った。弟子もできた。 「…カルシファー、僕は、いつまで待てばいいんだろう」 ぎっ…と椅子を傾け、足を暖炉に掛ける。端正な顔には、疲労がにじみ出ていた。 「…なぁハウル、そろそろ自分から動き出してもいいんじゃないか?」 カルシファーからしてみたら、何気なく言っただけかもしれない。いつになっても煮えきらないハウルに、業を煮やしたのかもしれない。…だが、その言葉にハウルは目を見開いた。 「自分から…?」 足を下ろし、ハウルはじっとカルシファーを見つめた。それに応え、カルシファーはもう一度繰り返す。 「ハウルはもう十分に待っただろ?だから、そろそろ自分から動き出してもいいんじゃないか、と思ったんだよ」 煌々と燃える炎を瞳に映し、ハウルは再び小さく呟いた。言い聞かせるかのように、胸に染み込ませるかのように。 「自分から…」 蒼い瞳に映った炎は、まるでハウルの想いを象徴しているかのようだった。 「街に行ってくる」 やがてハウルは、頻繁に出かけるようになった。身支度を整え、金の髪をなびかせて。 「行ってらっしゃい!」 手を振るマルクルに笑顔で返し、ノブを回す。 僕はもう待つのはやめたよ。自分から、君を見つけに行く。 「……参ったな」 しばらく街を歩き回ってから、ハウルは足を止めた。…追っ手、だ。 相手にするには、人通りが多すぎる。路地裏にでも引き込んで自滅させるか…そう考え、きびすを返した。普段あまり近寄らないような場所だが、ある程度の土地勘はあった。 (さて、どう料理しようか…) 「通して下さい!」 「……!」 どくん、と。 ないはずの心臓が、強く脈打つのを感じる。 僕は、この声を、知っている。心の琴線をかき鳴らされるような、この… 「…ん?」 同じ頃に動く城で、カルシファーもそれを感じとっていた。とくんとくんと、小さな心臓が強く脈打っている。 「…見つけた、のか」 なぁ、ハウル。やっぱり、自分から動いて良かっただろう? 「聞こえる…」 優しい声が。片時も忘れなかった、あの声が。 右に左にと路地を曲がり、…そして、見つけた。 「やぁ、ごめんごめん」 そう、ずっと。ずっと、ずっと…この瞬間を、待っていた。 「探したよ」 ---------------------------------------------------------------- BACK |