「こんばんは、お嬢さん。その写真は、どなたのものですか?」
ふいに聞こえた声に、はゆっくりと振り返った。…風にたなびくマントは、既に見慣れたものだ。
「妬いてくれるのは嬉しいんだけど、残念ながらこの前のちびキッドくんの写真よ。すっごい可愛いんだから」
「…妬いてるつもりはなかったんですが」
「じゃあそういうことにしといてあげる。見る?」
が差し出した写真を受け取り、片眼鏡越しに見る。なるほど、バラを手にして笑顔で写っているリトル・キッドは、確かにかわいい。
「バラは、私のような紳士にこそ似合うものですよ?」
ぽんっ、と音を立ててバラを一本出すと、それをの前に差し出す。苦笑しながら受け取り、ぼやくように言う。
「…窓から入ってくる人を紳士とは言わないわ」
「私は怪盗、ですから」
そう言って、ウィンクされる。…玄関から入ってくるつもりは、ないらしい。
「なんでもいいわ。じゃあ、またね。おやすみなさい」
バラを枕元の花瓶にさす。溢れそうなほどにバラを抱えた花瓶は、重みで倒れそうだ。
「夢の中で再び逢えますよう」
の手をとって、そっとキスをする。その隙に、がキッドの頬にキスをした。
「……!」
「やられてばっかじゃないわよ、怪盗さん?」
「…これは、これは。なかなか大胆なレディですね。さすが、」
とん、と軽い足取りでベランダの桟へ足をかける。何度も見ても、その様は優雅で美しい。
「私を“盗んだ”女性ですね。…良い夢を、。」

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