「…オメー、」
呼び鈴を鳴らしたのは、小さな小さな女の子。ちょっと前まで、“クラスメイト”だった女の子。
「蘭お姉さんの家にもいなくて、阿笠博士の家にもいないの。…ねぇ、コナン君がどこに行ったか、新一お兄さんは知らない?」
小さな瞳は必死で、わずかな希望を求めて揺らいでいる。けれど自分は、この少女の期待に応えることはできない。
「…悪いな、オレも知らねーんだ」
「そう…ですか…」
きっと心のどこかで、わかっていたのだろう。悲しい声で言った少女の前で膝を折り、目線を合わせる。
「…、ちゃん」
名前を呼ばれ、弾かれたように顔を上げる。少女にとっては大きな手で頭を撫でると、堪えていたのだろう、涙がせきを切ったように流れた。
「私っ、私、コナン君のこと、大好きだったの」
「…うん」
「でも、好きって言う前にコナン君、どこか遠くに行っちゃっ…てっ…」
「…うん」
「大好きで…大好き、で…」
ポケットからハンカチを取り出し、空いた左手で涙を拭いてやる。小さく息を吸い込むと、新一は微笑みながら声をかけた。
「…コナンから、伝言を預かってるんだ」
「え?」
…二度と会うことはない君だけど、「さようなら」よりも「ありがとう」を伝えたい。
優しく前髪をかきあげ、そこへそっとキスをする。
「…楽しかったよ、ありがとう。」

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