「なーなー、今日が何の日か知ってるか?」 机の上に足を乗せ、椅子をゆらゆらさせながら快斗が聞いてくる。私は黙って黒板横の日付へ目をやり、あっさりと答えた。 「七夕。」 「そう!だいせいかーい。実は“サマーバレンタインデー”でもあるんだけど、それはまぁおいとこう」 「サマー…?」 聞き慣れない単語に眉をひそめている私の横を素通りし、快斗が窓辺へ走りよる。 「切ないよなー、年に一度しか会えないなんてさ」 「…年に一度、か…」 考えられない。 それにまつわる話も何かあった気がするが、あいにく覚えていなかった。 「年に一度の逢瀬の日に、願い事なんか聞いてらんねーよな。人間はなんてふてぶてしいんだ」 「あはは」 そういえば子供の頃、七夕に雨が降って泣いたことがある。そんな私に、母は「下界に邪魔されずに、二人っきりの夜を過ごせて喜んでるわよ」と言って笑っていた。…確かに、そうかもしれない。 「のんびり会えるといいねぇ、織り姫と彦星」 快斗の横へ移動し、同じくまだ明るい空を見上げる。 「…そーだなー。まぁ、星に願い事ってのが土台無理な話なんだよな」 「まあねぇ。夢がなさすぎだとは思うけど」 くすくす笑っていると、横手の快斗がそっと髪に手を伸ばすのが見えた。 「…星は星で仲良くさせといて、こっちはこっちで勝手にやろーぜ」 「…ばぁーか。」 星の河を眺めながら、隣の君に思いを馳せる。 …そんな七夕も、いいかもしんない。 ------------------------------------------------------------ |