そう。、





美しいモノには、棘があると。
最初に言い出したのは、誰なのだろう。
本当に欲しければ、棘ごと握りしめてしまえば良い。痛みと引き換えに手に入れる甘い香りは、どれほど香しいだろう。流れる血など、気にもならない。
「…私は思うんです。」
棘があるモノは、棘でヒトを傷つけることを躊躇わないのだろうかと。
「本当は、」
傷つけたくないのではないかと。
「…馬鹿も休み休み言って、相手をするのも楽じゃないから」
窓辺に腰掛けた彼女の瞳は、凍てつくような冷たさで見上げてくる。美しく、棘のある瞳。
「貴女が欲しい」
「怪我をするわ」
「棘ごと握りしめます。欲望に疼く傷など、甘い香りに比べれば」
「来ないで、入らないで、入らないで。私の中に入らないで」
傷つけたくない、そう思っても、己が手で棘を抜くことはできない。
そう、だから。
「近寄って、いいですか」
答えはなく。
「キスをしても、いいですか」
応えは、ない。
「…触れても、いいですか?」

知っている知っている
あなたが本当は優しいことを
知っている知っている
その優しさに甘えている自分はとても卑怯であるということを

(知っている、)



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貴女は翼を持つ私よりも自由な存在であることを