ブ、ブ、ブ。 バイブにしっぱなしの携帯が、着信を知らせる。名前を確認してから、通話ボタンを押す。 「…もしもし?」 『快斗!窓、窓の外見て!』 「…は?」 電話口から聞こえるのは、慣れ親しんだ彼女の声。なんだかよくわからないが、とにかく窓の外を見ろとまくしたてている。 「っても、さっきまで雨降ってただろ?なにがあるって…」 文句を言いつつ、素直に従う。カラカラと窓を開けて、快斗は声を失った。 『…見た?』 満足そうな、彼女の声。きっと笑っているのだろう、そんなことを思いつつ言葉を返す。 「…見た。綺麗だな、虹。」 今まで見たことがないほど、大きな虹。地面から地面まで、ここまではっきりと弧を描いたものはそうそうお目にかかれない。 『ね、快斗の家と私の家と、結構離れてるでしょ?』 「ん?ああ、そうだな」 『…空ってさぁ、広いね。』 こんなに離れてるのに、同じものを見られるんだよ。 「…広いな、空。」 どうして君は、そういうセリフをさらりと言ってしまうんだろう。どうして君は、そんなにあっさり心をさらってしまうんだろう。 …空に比べたら、小さすぎる僕らだけど。だから、どんなに些細なことでも幸せになれるんだ。 ------------------------------------------------------------ |