エピローグ





ファンファンファンファンファン…

『…へ?』
遠くから聞こえてきたその音は、やがてマンションの前で止まった。





「うっそぉ!!」
「…マジで?」
屋上から玄関を見下ろし、二人は唖然とした。尋常でない量のパトカーが止まり、次々と建物の中へと警官が入っていく。
「ちょ、ちょ、快斗!どーすんの!?このままじゃ捕まっちゃうよ!」
「…白馬か…」
気付いていない振りをして、しっかり後を追っていたのだろう。快斗は軽く舌打ちすると、をばっと横抱きに抱えた。
「あ…あの、快斗くん…?まさか、とは思うけど…」
「その…まさかだよっ!」
言うが早いか、だんっと屋上を蹴って飛ぶ。
「う、わっ…」
本日二度目の浮遊感。唐突に訪れたそれに、は絶叫したいのを必死に堪えた。
「…っと!」
快斗の声と共に、唐突に襲った浮遊感は、やはり唐突に消え去った。
「…へ?」
よくよく頭上を見てみれば、屋上からなにやら続く銀の糸。
「…40階、だったよな?」
オレが、飛び込んじまったのは。
そう言って、にっと笑う。
「…網戸代、二枚分払ってもらうからね?」
「お安い御用だっ!」
言って、再び網戸を蹴り破って、快斗はの部屋へと着地した。





「やぁ白馬探偵、またキッドに逃げられたらしいじゃねーか!」
「…うるさい」
目の下の隈が、彼の疲労を物語っている。昨夜もあの後、あちこちを探し歩いたのだろう。
「そういえばさん、あのあと中森警部にかけあったら、これからも現場に来ていいって。どうする?」
勿論、来るだろう?
尋ねてはいるが、言外に「当然来る」という意味合いが含まれている。
「…あ…」
がキッドを捕まえたかったのは、快斗だと確信したかったからであって、それを確かめた以上現場に行く意味はない。
…ない、けれど…
(やめとけやめとけ!もういいだろ?)
快斗としては、またが危険な目に会うのではないかと気が気ではない。眉をひそめて手を左右に振り、それをに伝えようとする。
…だが、それを見て、はにっと笑った。まるで、これから悪戯をする子供のように。
「うん!よろしくね!」
(なにぃぃぃぃっ!?)
ずがしゃっ!
勢い余って椅子から転がり落ちた快斗を横目に、白馬は嬉しそうに言った。
「そうか!早くキッドから予告状が来るといいな」
「そうだね!」
それに笑顔で返事をするを見て、快斗は唖然とした。…やがて、満足そうに白馬が去ってから、快斗はじろりと睨んで言った。
「おいおい…マジかよ…?」
「マ・ジ!だって…」
「…だって?」
続きを聞きたそうに言う快斗を見て、はくすりと笑って言う。
「やっぱ秘密!」
「…はぁ?」
「快斗には教えてあげなーい」
「なんでだよ!」
あの時、屋上で快斗は確かにこう言った。
(今のオレは、快斗だよ)
快斗の時だけじゃなくて、キッドの時のあなたも捕まえたい、なんて。
…言えるわけ、ないでしょ?




----------------------------------------------------------------
2004.5.10


BACK