「大佐…やっと見付けましたよ…ふふふふ、おとなしく執務室に戻って机に向かってください…」

ゆらぁり、と怪しげな動きを見せながらこちらに向かってくるハボックを見て、ロイはわけもわからずぞっとした。

なんだ、なんだかわからないが怖い。

「…な、んで、急にそんなことを言うんだ」

じり、と後退りつつ、一応声をかけてみる。いや、よく見れば、他にもあちこちから視線を感じる。

そう…まるで、木の影から獲物を狙っているような、そんな視線を。

(なんなんだ!私がサボるのは今に始まったことじゃないだろう!?)

悲鳴を上げつつ、とにかくワケを聞こう、とビビりながらもハボックに詰めよって聞いた。

「なんだというんだ!」

そう言うと、無言で差し出されたのは一枚の紙片。

『マスタング大佐を捕えた者には、なんらかの賞与を与えます。私がいない間、見張りをお願いします 

                                        リザ・ホークアイ』

「中尉ぃいぃぃ!?」

「あの中尉が!わざわざこんなものをつくってお願いして行ったんスよ!?これはもう大佐を捕まえるしか…!」

「嘘つけ目当ては賞与だろう!」

「う」

一瞬たじ…となった隙をついて、ロイはだっと駆け出した。

「あ、ちょ、待て大佐ぁー!!」

おそるおそる振り向けば、すごい形相で走ってくるハボック、その他大勢。

「こいつ本気だ!!」

普段あまり走らない分、すぐに息が上がる。

もつれる足を無理矢理動かし、ロイは何とか執務室に駆け込んで勢い良く鍵をかけた。

「…はーっ、はーっ、くそ…」

「大佐、少しは懲りましたか?」

「おわぁっ!?」

誰もいないと思っていた室内で急に聞こえた声に、ロイは文字通り飛び上がった。

「中尉!?出かけていたはずじゃあ…」

「あれは嘘です」

「嘘!?」

あっさり言い放ったホークアイを唖然としながら見つめていると、ずるずると椅子の前まで引っ張っていかれる。

「あんまりにもいつも逃げてばかりだから、意地悪してみたくなったんですよ」

言って、いたずらっぽく笑った。

「! あ、いや…私が、悪かった。すまない…」

「上官である大佐を騙した罰を、なんなりと」

ぴっ、と姿勢を正してホークアイが言うと、ロイはわざと難しそうな顔をして言った。

「うむ、君の罪は重い。そうだな…」

そこで口の端を上げ、片目を瞑って続ける。

「今日の仕事の後、私と一緒に食事をすること。どうだ?」

「了解しました」

言って、ホークアイはにこやかに続けた。

「終われば、ですね」

「うっ」

目の前に積まれた、書類の山。それを見てロイは一瞬詰まったが、すぐにペンを走らせ始めた。

…終了定時には、その山は綺麗になくなっていることとなる。











「中尉、実際なんであんなことしたんスか?」

「少尉、『アメとムチ』って言葉、知ってるかしら」

「…はい…」





知らぬが、仏。





2004.5.5


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