ここにいる理由





毎日、山のような書類を片付けて。

事件があれば、飛んでいき。

必要があれば、錬金術で戦って。

…私は、何でここにいるんだろう。





「…?どうした、元気ねーな」
「…ハボック少尉…」
裏庭でぼんやりしている様は、らしくない。心配させてしまったことを申し訳なく思いながら、はそのままずるずるとハボックによりかかった。
「…なんかあったのか?大佐と」
とロイのいがみあいは、もはや東方司令部名物と化している。寄りかかっているの頭をぽんぽん、と叩きながら、ハボックが言った。それを聞き、はなんとなく歯切れの悪いままに答える。
「んー…なんかこう、何で私ここにいるのかなあって…」
「…へ?」
「自分でもよく分からないんだけど…ただお姉ちゃんの後を追って…というかマスタン…じゃない、大佐から守りたいって思って…でも、実際には仕事だー鎮圧だーって、そんなのばっかりで…よくわかんなくなっちゃった」
……」
いくら地位が少佐でも、国家錬金術師でも。まだ、心が発展途上であること。普段の働きぶりを見ていて、つい忘れてしまっていた。
「…お前も色々難しいこと考えてんだなぁ」
そう言って、髪をぐしゃぐしゃとやってやると、悲鳴を上げて飛びすさった。
「こっ…これでも朝セットしてるのにっ!」
「…っと、悪ぃ悪ぃ。けどまぁ…あれだ。とりあえず、考えても分からないことはな、考えないに限る」
あっけらかんとして言ったハボックに、は間の抜けた声を上げた。
「…はぁ?」
やや離れたところにいたハボックが、よつんばいのままの方へずりずりと移動してきた。
「だからな、そーいうのって、考えれば考えるほどわからなくなるもんなんだよ。そのうち自ずと分かるようになる」
「…そんなもんかなぁ…?」
「そんなもんなんだって。だからそんなに思い詰めるなよ」
難しい顔をして黙り込んだの肩をぽんぽん、と叩いてやる。
(…お前はまだ、気付いてないんだな)
仕事をするときは、どんなに大変な時でもの瞳は輝いている。錬金術を使うときなんて、本当に楽しそうだ。周りは皆気付いているのに、本人だけが気付いていない。…“姉”以外で、夢中になれるものを見付けたことに。きっかけは何であれ、今は皆から必要とされているし、自分でもここにいることが楽しくて仕方ないのだ。
(…教えてやるもんじゃないんだよな、こーいうのはよ)
いずれ、自分で気付くときまで。
「なにしてるんだ、!探したぞ」
息せき切ってやってきたのは、ロイだった。
「…何ですか?大佐」
「何ですか、じゃない!君は上官である意識を持ちたまえ。軍事会議だ、行くぞ!」
「あ、は、はい!」
「ハボックもふらふらしてるんじゃない!」
「へーい」
ロイに腕を引っ張られ、ばたばたと走り去る途中、がハボックに向かって笑顔で手を振った。それにひらひらと振り返してから、一人ごちる。
「…近い内に分かるかもな」



お前が、ここにいる理由が。





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