「コスモス」
「へ?」
唐突に呟かれたの言葉に、快斗がきょとんとして聞き返す。
「なんだって?」
「だから、コスモス!」
机の上に身を乗り出し、はそう言って繰り返した。
「見に行きたい!」
「…なんでまた」
「今朝、テレビでやってた」
単純だ、とは思うが、成程確かにコスモスの綺麗な季節だ。普段、自分からああしたいこうしたいといわないにしては、珍しく積極的な発言だといえるだろう。
「…いつ、行く?」
そう返せば、ぱっと満面笑みにして。
「今度の日曜日!」
「いいぜ。じゃあ10時に、迎えに行くから」
「うん!」
つくづく単純だとは思うが、その笑顔見たさに結局は付き合ってしまう自分も、自分なのだ。これでいていまだに「付き合って」いるわけではないのだから、笑ってしまう。
(……けど、)
そろそろ。
…オレとしても、はっきりさせたいところでは、あるんだよな。





 コ ス モ ス 







「わー……!」
一面に咲き誇る、コスモス畑。
それらを目の前にして、は大喜びだった。
「ね、ね、快斗!同じピンクでもさ、濃いのと薄いのとあるね。白もあるし、コスモスっていろんな色があったんだ…!」
「そうだな」
大はしゃぎののあとをついて歩きながら、快斗が同意する。
「コスモスって、よく見るとちょっとキクに似てるだろ?色は大分違うけどな」
快斗の言葉に、が近くにあったコスモスの花弁を指でつまみ、じっと観察する。
「確かに…花びらの形とか、似てるかも」
「そう、同じキク科なんだよ。一般的なコスモスってのは大体“オオハルシャギク”って名前なんだ」
「へえ…」
「チョコレートの香りがする、チョコレートコスモスなんてのもある」
そう続けた快斗に、が飛びつく。
「ほんと!?」
「ほんと」
ケケッ、と笑って言った快斗に、が目を輝かせる。
「いつか、それも見てみたいな」
「そうだなー……」

……ザアッ。

風が吹きぬけ、コスモスが揺れる。
さわさわと、花が小さく語りかけてくる。
それは間違いなく錯覚なのだけれど、なんとなくそう感じてしまった自分が可笑しくて、快斗は口元に笑みを浮かべた。花からまで勇気をもらわないと話が進められないのか、オレは。
「快斗?」
「……なあ、。おめーさ、オレのこと……」
どう、思ってる?
そう続けようとして、言葉を切る。
…それは、卑怯だ。
(自分で答えを出さずに委ねるなんて、な)
再び、風が吹き抜ける。
きゃ、と目を瞑ったを、快斗はぐっと抱き寄せた。
「っ、」

ドッドッドッ、と強く心臓が高鳴る。聞かれてしまうな、と思ったけれど、それもまた、自分の本気を伝えるのならばちょうど良いかもしれない。
「オレ、おめーのことが好きだよ。…おめーがいつも笑っていられるように、オレが手伝ってやりたい。チョコレートコスモスだって、…オレ以外の誰かと、見に行かせるなんて絶対に嫌だ」
コスモス畑だって。
ずっとずっと、来年も、その先も、一緒に見ていきたい。
「快斗……、ごめん」
「っ……!」
口から漏れた言葉に、息が詰まる。
「……私、ずっと、快斗の優しさに甘えてたね。本当は、私のほうから言わなきゃいけなかったのに」
そう言って、快斗を見上げると微笑んで言う。
「私も、快斗のことが好き」
「〜〜〜っ、おめーなあっ、心臓に悪いだろ!!」
「え?な、なんかした…?」
本気でわからない、という風に戸惑っているに、快斗は深く深く息を吐いて苦笑した。
「…なんでもねーよ。もういいや」
抱きしめていた腕の力を緩め、コスモス畑へと視線をやる。
「……今日、来て良かったな」
「うん」
「もう少し向こうまで、行って見るか」
…大したことではないのに、今までどうしても踏み込めなかったその一歩を踏み出す。
ぎゅ、と。
初めて握ったの手は、やわらかくて、あたたかかった。
「……うん」
ほんのりと、頬を淡い朱色に染めて。
もまた、その手をそっと握り返したのだった。



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花乃さんに頂いた、相互記念小説のお返しに送らせて頂きました。
ありがとうございましたv

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