「えっ、その子工藤君の彼女!?」 …二人で道を歩いていると、こういうことがままある。新聞記者だったり、ファンの女の子だったり。…そして、新一の反応もいつも同じだった。 「あー、やっぱりそう見える?」 「兄妹です。」 …で、即座に否定するのは、いつも私の役目である。 「ご兄妹…ですか?」 「はい。双子ですけど」 にっこり笑ってそう言うと、新一がちぇっと軽く舌打ちする。 「なんだよー、軽い冗談なのに」 ぶーたれる新一は無視、とことん無視。 「双子…の割には、似てないですよね…?」 いつも思う。みんな一般的な常識がない、と。男女一人ずつの時点で、なぜ気付かないのだろう。 「二卵性ですから」 顔が同じなのは、一卵性だ。 「ま、そーいうことだ。行くぜ、」 「うん」 …ここで、差し出された手をうっかり握ってしまったりすると、いらぬ誤解を残して去ることになってしまう。買ったばかりの食料品をさりげなくその手に握らせて、不満たらたらの新一の先に立って歩きだした。 …そんな、私たちの日常。 「ー!朝だぞー!」 ノックもなしに扉を蹴り開けた新一に向かって、は電気スタンドを投げつけた。マクラ、などというかわいいものではない。 「うぉわっ!?」 「着替え中!!トースト先に焼いといて!起こしにこなくていいって言ってるでしょ!」 新一がスタンドをキャッチしている隙に、はドアへ駆け寄り勢いよく閉めた。 「けどよー、オメー前寝過ごして、母さんに送ってもらったことあるじゃねーか」 ドアの外から話しかけてくる新一に向かって、はうんざりしたように言う。 「あれから一度も寝過ごしてないでしょ!」 有希子と優作が、海外へ行く前の話だ。有希子に送ってもらうと後ろから白バイが追ってくるので、それ以来一度も寝過ごしたことはない。 (…過保護だよね) うちの家族は、全体的に。 セーラー服のリボンの位置を直しつつ、ぼんやりそんなことを思う。洋服ダンスは、優作が海外から送ってきてくれた服であふれかえっている。新一のことは心配してないらしいが、の携帯にはしょっちゅうメールが届いていた。 とんとんとん、と階段を下り、扉を開けて既に新一が座っている椅子の横に腰を下ろす。テレビでは、相変わらず物騒な事件が報道されていた。 「おい、この事件の犯人、わかるか?」 「わからない興味ないごちそーさま!」 特技は早食いです、と言わんばかりの勢いでトーストをたいらげ、は鞄をひっつかんだ。朝っぱらから、そんな話は聞きたくない。 「ちょ、おい、オレも行くって!」 慌てて追ってくる新一を待つことなく、ずんずん歩いて玄関の扉を開ける。 「あ、蘭!おはよー!」 「おはよう」 扉を開けると、既にそこには蘭が待っていた。いつも新一ともめたりなんだりして待たせてしまうのだが、今日そんなに待たせずにすんだだろう。 「やっぱり私も着てみたかったなぁ、セーラー服」 「ふっふっふ、いいでしょー!でも、帝丹みたいなネクタイもしてみたかったなー」 「中学はリボンだったしね」 そんなやりとりをしていると、ようやく身支度を整えた新一が出てきた。 「おはよう、新一」 「オゥ」 ジト目でを見ながら、生返事を返す。…自慢の推理を聞いてもらえなかったのを、根に持っているらしい。 「蘭に聞いてもらえばいいでしょ!」 そういってが背中を押すと、新一が不思議そうに言った。 「…オレ、今口に出してたか?」 「そんくらい、目見ればわかるよ」 そのやりとりを見ていた蘭が、ぷっと吹き出して言った。 「と新一って、いつもそうよね。テレパシーとか感じられるのは一卵性だけだって言うけど、二卵性でもあるんじゃない?」 「んー…そうなのかなぁ?まぁずっとそばにいれば、なんとなくわかるようになるよ」 「まぁ、そうだな」 今とは逆に、新一がの気持ちを読むのも珍しいことではない。 「じゃ、私行くから」 「いってらっしゃーい」 「!!」 「ひあぁっ!」 こぎだした自転車を後ろからつかまれ、ひっくり返りそうになるのをかろうじて耐える。 「なに!」 「いいか、わかってると思うが、あいつには…」 「近付くな?無理。同じクラスなんだから」 「おいこら!」 「じゃーねー」 新一を振り切って、自転車をこぎ出す。…後ろから、まだなにやら声が聞こえていたが、無視してそのまま走り続けた。 「…のこと、心配?」 「ああ…やっぱり無理矢理にでも帝丹に入れるべきだったな…」 男兄弟や父親は、とかく敏感になりがちだ。…こと、男関係においては。 新一は、今まさにその状態だった。 「私だって、とも同じ高校に通いたかったけど…」 そういって、蘭はかすかに見えるの後ろ姿へ視線をやって続けた。 「仕方ないじゃない。自分で、江古田高校を選んだんだから」 「おっはよー、!」 「おはよー、青子」 どさりと鞄を下ろし、授業前のにぎやかな教室を見回す。 「…快斗は?」 「さぁ?まだ来てないみたい」 「ふーん…」 時刻は、八時七分。あと三分で始業ベルが鳴る。 「私、ちょっとトイレ行ってくる」 「うん、いってらっしゃーい」 ひらひらと手を振る青子に振り返し、は教室を出て階段の方へ向かった。 たんたんたん、とリズムよく上り、『立ち入り禁止』の札がかかっているロープをくぐり抜ける。ノブに手をかけると、案の定扉は開いていた。 「快斗!」 屋上にいるだろう人物の名を呼びながら、扉を開ける。…が、そこには誰もいなかった。 「あれ?いない…」 「…なんだ、か」 「!?」 頭上から聞こえた声に、見上げるより先に人影が降ってきた。人の気配を感じて、隠れていたらしい。 「なんだ、じゃないでしょ。早く戻らないと、授業始まるよ」 「昨日の仕事のせいで寝不足なんだよ…」 言って、盛大にあくびをする快斗には腕組みをして言った。 「新一はいつも通りに起きてたけど?」 「追われる側と追う側じゃ、疲労の度合いが違うんだよ」 言うが早いか、快斗は一息でとの距離を詰めた。 「うわっ…」 「…抱きまくらになってくんない?」 ぎゅ、とを抱きしめると、快斗はそのまま倒れ込んだ。 「…ってなるかボケっ!一人で寝てなさいっ!」 どんっ、と突き放し、飛び起きる。が怒りをたたえた瞳で見下ろすと、快斗が愉快そうに笑って言った。 「どーした?今日は反応が悪かったな」 「あのねー…」 …からかっているのか、本気なのかわからない。快斗はいつもそうやって、半端にをからかうのである。 「…この顔に、弱い?」 「!」 ふっ、と音もなく立ち上がった快斗に、がぎょっとして一歩引く。肩に手が掛かりそうになったとき、唐突に音楽が流れ出した。 「……っ、私だ」 じゃんじゃんやかましく鳴り響く音楽…着メロを聞いて、硬直していたがはっとしてポケットから携帯を取り出した。相手の名前を確認する余裕もなく、通話ボタンを押す。 「もしも…」 『黒羽ぁぁぁっ!!!』 通話口から聞こえた特大ボイスに、は携帯を取り落とした。…それを、おもしろくなさそうに快斗が拾い上げる。 「…何」 『テメー、やっぱりそこにいるんだな!?に何もしてねーだろうな!?』 「もう少しだったのに」 『おいっ!!』 そこでようやく、が快斗から携帯を取り上げた。このまま放っておいたら、新一が江古田高校に来かねない。 「もしもし、新一?」 『!大丈夫か!?』 「なんともないよ。けど…」 なんで、わかったの?あの瞬間、とっさに新一に助けを求めたのは心の中からだったのに。 『…蘭に話してもつまんねーからさ、やっぱり帰ってからに話すよ』 “蘭に聞いてもらえばいいでしょ!” …つまりは、そういうこと。 「…ふふ。分かった」 どこにいても、何をしてても。 「…僕らはいつも繋がっているんだ、って?」 急に耳元で聞こえた声に、は飛び上がった。 「ひぃやぁぁぁ!?」 『! !?どうし』 ブチッ。 快斗が、いつのまにかから取り上げた携帯の終話ボタンを押した。 「ちょっと!誤解するでしょ!新一来ちゃうよ!」 携帯を取り上げようとしたを軽く交わし、快斗がにっと笑って言う。 「…次に盗るものが、決まった」 「え…?」 がその言葉を理解するより早く、快斗は姿を消していた。 「―――――!!」 ばぁんっ、と蹴り破るかの勢いで扉を開けた新一に、は飛び上がった。 「な、なに!!」 『今夜十時、嬢をいただきに参ります 怪盗キッド』 「どういうことだこれっ!!」 「しっ……知るかぁぁぁぁっ!!」 …なにやら、賑やかになりそうな予感。 ---------------------------------------------------------------- Risaさん、リクエストありがとうございました! (from 休止企画) BACK |