「トリックオアトリーーートッ!!」
仕事場の扉を開け放ち笑顔で言ったに、ちらりと一瞬だけ視線やって竜崎はパソコンに向き直った。
「……自分の年齢を省みることも大切です。ワタリ、今のは見なかったことにしてあげて下さい」
そんなと竜崎のやり取りになれているワタリは、ただ黙って微笑んだ。
「別に魔女のカッコしてるとかじゃないんだからいいでしょー!」
ずんずん入ってくると、キャスターのついた椅子に座ったままの竜崎を椅子ごとくるりと向き直らせる。
「お菓子をくれなきゃ、悪戯するよ?」
「……あなたが、私に悪戯を……?」
半眼で睨めつけるように見つめながら言った竜崎に、は半泣きで言った。
「うんごめん私が悪かった。だからお願いだからそんなこの世で最も汚らわしいものを見るような目で私を見ないで」
(……元々、竜崎からお菓子をもらおうなんて思ってないっつーの)
人体構成の主成分が糖分でできているような人間だ。早い話、彼にとって菓子は「与えられるもの」であって、決して「与えるもの」ではないのである。
「…言ってみたかっただけ。さー今日も一日頑張ってお仕事しよーっと」
「最初からそうしてください」
「……………。」
…言わなきゃ良かった、と心の底から後悔しながら、はキーボードを叩き始めた。





Trick and Treat...?







「まあ、最初からあんたにお菓子をもらおうとは思っていなかったわけで。」
「なんですかいきなり。失礼な人ですね」
半ば無理やり仕事を終わらせ、部屋に連れ込んだ(と、いうかまあ私と竜崎は同室なのだが)竜崎の前に、仁王立ちになってが言う。
「単に、今日が何の日か覚えてるかなーとか確認したかっただけ」
「…ハロウィン。カトリックの諸聖人の日万聖節の前晩、つまり10月31日に行われる伝統行事。諸聖人の日の旧称"All Hallows"のeve…前夜祭であることから、Halloweenと呼ばれるようになった。ケルト人の収穫感謝祭がむぐ」
「予想通りの反応ありがとう!でも違う!」
強制的に竜崎の口を塞ぐと、はそのまま竜崎をずるずるとベッドまで引きずっていった。
「……?」
「さ、乗って」
にこにこしながらベッドを指すに、竜崎がぼそりと呟く。
「…そんな明らさまな誘い方されましても…。せめて灯りを消すとか先に自分が準備して待ってるとか」
「うん、誤解。ていうか、昨日あんなにしてもまだ足りないのかと私は全力で文句を言いたい」
のそのそと移動する竜崎の背中を押してベッドの上に乗せると、はそそくさとベッドの下からなにやら引きずり出してきた。
「……なんなんですか。趣旨がさっぱり見えません」
「へっへっへ〜、行くよー」
竜崎の文句をさらりと流すと、は引きずり出した巨大な袋を持ったまま、ベッドの上へと飛び乗った。
「せーのっ…!」
袋を持ち上げると、袋の口を竜崎の真下にして一気に中身をひっくり返す。
「ちょっ……」
意図に気づいた竜崎が、何かを言うより一瞬早く。

バラバラバラバラバララッ!!!

……お菓子の雨が、竜崎を襲っていた。
「ハッピーバースデー、竜崎!!」
チョコレートにクッキー、キャンディ、マフィンやドーナツ、マカロン、ビスケット、マシュマロにマドレーヌ。
これでもか、というほどのお菓子に囲まれ幸せいっぱいかと思いきや、竜崎は恨めしそうにを見た。
「……痛かったんですが」
「真っ先にそれですか」
確かに、チョコレートなんかが頭の上に降ってきたら痛いかもしれないが他に言うことは無いのだろうか。
「……けれど、そうですね」
手近にあったチョコの銀紙をはがし、パキンと割って口に含む。
「悪くない、催しです」
そう言うと、唇をぺろりと舐めてにっと口角をつり上げた。
「……ま、こんなもんか。」
満面の笑みで、心の底から嬉しそうに感謝されることを願っていたわけではない。そもそもそれが無理な願いだということくらいはわかっている。とりあえずは喜んでくれたのだろうと、もベッドに腰掛けて手近にあったキャンディを手に取った。
それを目ざとく見つけた竜崎が、ささっと取り上げる。
「これは私のですよ」
「え、いいじゃん一個くらい」
「駄目です」
「……あんたねえっ…!」
大して食べたかったわけでもないが、そんな風に言われると何が何でも食べたくなる。逃げる竜崎の手を追って身を乗り出すと、そのまま竜崎を押し倒してしまった。
「うわあっ!」
「……押し倒されたのは私ですよ。変な声出さないでください」
「変な声……」
私本当にこの人のこと好きだったっけ…と思いながら身を起こそうとしたところで、竜崎が「仕方ありませんね」と呟くのが聞こえた。
「え?」
「そんなに欲しいのなら、あげます」
手に持っていたキャンディを自身の口に含ませると、そのままの腕を強く引いて引き寄せる。
「ちょっ……!」
不安定な体勢から急に引き寄せられたせいで、バランスを崩しかける。そんなの両頬に手を添えると、竜崎はそのままキスをした。
「んっ、」
竜崎の舌が入り込み、の口内にキャンディを落とす。
「……どうですか?甘いでしょう?」
くすりと笑って言われ、はかあっと頬を染めた。
「バ……バカ!?」
「バカはあなたです。ここはベッドの上ですよ?…こんなに私を煽ったのだから、覚悟は出来ているのでしょう?」
再びキスをされると、…口に含んだキャンディのように、思考が甘く、とろけてゆくのを感じる。
「…私、お菓子あげたじゃない」
キスの合間にぼそりと呟けば、竜崎は空っとぼけたように言った。
「私は欲張りですから。お菓子をもらった上で、悪戯もするんです」
「あーそうですか…」
もう何を言っても聞いてはくれないのだろう。
(……今日だけは、許してあげる。)

あんたが生まれた、特別な日だから……ね。



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