冬が来る前に伝えたい はぁっ、はぁっ。 吐く息は白く、凍てつくような寒さを感じる。それでも自然にやけてしまう口元を、隠すこともなくて。 夜空に鐘の音が響き、快斗は足を早めた。 「…っ、悪ぃ!ちょっと遅れた」 「大丈夫だよ」 にっこり笑って言われても、そっと握りしめているかじかんだ手が快斗の胸を締め付けた。 「…次のイブに、オメーの手に似合う手袋を、やるからな。」 そう言うと、ぱぁっと嬉しそうに笑って小指を差し出した。 「約束だよ!」 「…オゥ!」 へへっ、とはにかんだように笑い、快斗も小指をからませる。…そんな君を、誰よりも愛しいと感じるんだ。 冬が来る前に届けたい 君だけが僕のすべてさ 「…雨、降ってるのに。傘くらい差さなきゃだめだよ」 そう言って、ぱたぱたとハンカチで頭を拭かれる。 「へ、平気だって!…オメーこそ、寒くねーか?」 雨に当たっていないとはいえ、外にいたことに変わりはない。 「…平気だって。」 快斗をまねていった言葉に、ぷっと吹き出す。 「…お互い様だな」 この気温では、この雨がミゾレに変わるのも時間の問題だろう。 「…手」 視線をよそへ逸らしつつ、そう言ってそっと自分の手を差し出せば、ぎゅっと握り返される。自分だって決して温かい手をしているわけではないが、かすかな温もりを分けあって、1ミリの距離もないくらい近付いて。 「…あったけーな」 「うん、あったかいね」 そう言って、そっと肩に頭をもたせかけてくれる。 僕のとなりに 君だけがいてほしい ゆっくりと歩きながら、快斗が不意に言う。 「もしも生まれ変わっても、オレはオメーを見つけるぜ」 一瞬目を丸くしてから、笑いながら言う。 「…ふふ、言い過ぎだよ、快斗」 (…言い過ぎなんかじゃ、ねーよ) 君は笑いながら言ったけれど、握り返す手で心感じてるよ。 傘に当たっていた雨音が、パラパラと硬質なものになっている。…やはり、ミゾレになったらしい。 「どこか店に入るか?雨もミゾレになったみてーだし」 そう聞くと、黙ってふるふると首を振る。…想いは、同じらしかった。 雪が降る前に伝えたい お互いわかっているけれど (…なんでだろーな) こんなに近くにいて、温もりを感じているというのに。 なぜか君が遠くにゆきそうで、このまま雪に消えてしまいそうで、不安になる。 ぎゅっと手を握りしめると、不思議そうに見つめられる。 「…オリオンとアルテミスみたいに、神話になれたらいいのに」 愚かなことを言ったと思う。それでも、そうなれれば、こんな不安を感じることもないのにと。考えずにはいられないのだ。 「…私はやだよ」 拒否の言葉に、ぐっと胸が締め付けられる。 「だって…星になったら、快斗と手を繋げないし、あったかいって思えないし、…そんなの、やだ」 「……っ、」 胸の奥から、ふつふつとこみ上げる感情。これを、愛しさと呼ばずになんと呼べばいいというのか。 一瞬抱いた淡い夢を、ミゾレが溶かしてゆく。…君とこうしている時間は、本当に早くすぎてしまって。ちらりと目に入った柱時計は、見なかったことにしてもいいだろうか? 君といると、百年が一瞬に感じられるんだ。 冬が来る前に届けたい 君だけが僕のすべてさ 「…このミゾレ、そのうち雪に変わるだろうな」 「うん」 ゆっくり空を見上げれば、真っ白な息が空へと向かって昇ってゆく。 白い吐息に包まれたら この恋も愛に変わるよ 「…なぁ、」 君のとなりは 僕しかありえないよ --------------------------------------------------------------- |