「結婚式…」

ぽつり、と呟かれたその台詞に、その場の全員が固まった。











なまあたたかい目











「あ…あの、大佐…?」

衝撃の一言が出てから、ゆうに三分はたっている。

硬直状態から抜け出すのに、それだけの時間がかかったのだ。

「…いや…先日な…またヒューズに嫁さんもらえと言われてな…それもいいかなーとか…」

完全に視線は明後日、手も何もないところで延々とサインを繰り返し書いている。

まさに「心ここにあらず」である。

「け…けど、大佐、結婚っていうのは相手がいないとできない行為ですよ?一人で結婚、とかあんまり聞かないっス」

ハボックの言葉に、周りの皆がうんうんと頷く。

だが、それを聞くとロイは、心底意外そうに言ってのけた。

「何を言っているんだ。相手ならいるじゃないか」



ぎゃーーーーーー!!



部屋の温度が、間違いなく下がっている。ある一人が発する、研ぎ澄まされた冷気によって。

「なぁ、そうだろ?ちゅ…」

「中華料理が食べたいだってー!?あっはっは、全く大佐はお茶目だなあ!」

「は?いや、私は…」

「よーし曹長!俺たちは来々軒に電話しに行ってくるか!」

「そうですね、ブレダ少尉!」

言って、止める間もなく飛び出していった二人をファルマンとハボックは心の中で呪った。

いち抜けた、というやつだ。

「ああそうだ、今日は叔父の従兄弟の姪の姉妹の叔母の孫娘が遊びに来る日でした!では私は今日はこれで」

(うっそォ!)

しゅた!と片手を上げて颯爽と去っていくファルマンを見て、ハボックは心中で絶叫した。

冗談じゃない、こんなところに取り残されてたまるか。

「大佐、俺、今日は――…」

脇手から、射るような視線。

…あぁ、胃が痛い。

「…何でもないっス…」

だばだばと涙を流しつつ自席に戻ったハボックを見て、彼女はまた机上へと視線を戻した。

「なんなんだ、お前達は?なぁ中尉」

(あぁぁぁぁ…)

もういい、特進でもなんでもしてやる。

ロイの台詞を遠くで聞きながら(既に半分現実逃避気味)ハボックは次の台詞を待った。

…ホークアイの、台詞を。

「そうですね。…大佐が起きたまま寝言を言ったのが原因だと思いますが」

「は?私が?」

きょとん、とするロイを見て、ホークアイは視線を書類からそらさないまま続けた。

「まだ、その時期ではないと思いますが」

「あぁ、結婚か?」

にこやかに続けたロイを見て、ハボックは(念力で人を黙らせる方法があれば)と真剣に考えていた。

「そうだな、じゃあ君の心の準備ができるまで待とうか」

「是非そうして下さい」

(…ん?)

なんか、変じゃねーか…?

だが、意識混濁状態の彼にはそれを判別するだけの力はなく。

(ま、なんか危機も防げたみたいだし、いっか…)

もう少し、この二人を見守ることにしよう。

…なまあたたかい目で。





2004.5.9


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