チェシャ猫は、なにかにつけて自分を食べろって言う。 「いらないってば」 「そうかい」 そのときは大人しく引き下がるくせに、またしばらくすると繰り返す。 「僕をお食べ」 「……………チェシャ猫ー。」 いい加減うんざりして、今回こそはと猫の首を持ち上げる。 「あのね!私は猫の首なんて食べる趣味はないの!」 「そうかい」 「納得したふりして、どうせまたお食べっていうんでしょ。次に言ったら本当に食べちゃうからね!?」 「光栄だね」 「…………………。」 この戦法は、チェシャ猫には聞かない。むしろ大喜びしてしまいそうだ。 「ねえ、チェシャ猫。なんであなたはそんなに私に食べてほしがるの」 すとん、と。 腰を下ろして、問いかけてみる。 こうなったら、根本から解決の糸口を探してみるしかない。 「猫はおいしいんだよ」 「答えになってない」 「おいしいものをアリスに食べてほしいだけさ」 「私はチェシャ猫を食べたくなんてないの」 「おいしいのに?」 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」 埒が明かない。 ジト目でチェシャ猫を睨みつけ、アリスはため息混じりに言った。 「…私は、たとえ首でも、生きたままのチェシャ猫と一緒にいたいの」 だから、もう“食べろ”なんて言わないで。 そう呟いて、よいしょと立ち上がる。 猫の首を持ち上げ、エプロンに入れようとすると、猫がぽつりと呟いた。 「…アリス。僕らのアリス」 「うん?」 「君は、僕と共にいることを望むのかい?」 「だーかーら、そう言ってるでしょ!聞こえたんならもう言わないでよね!」 「……うん。わかったよ」 お決まりの台詞が出るかと思ったけれど、それはなかった。 まあいっか、と自己完結すると、アリスは猫の首をエプロンに入れた。 「さーて行くよ、チェシャ猫」 「僕らのアリス、君が望むなら」 なーんだ、やっぱりここで出たか、なんて苦笑しながら、アリスは歩き出した。 その歩調に合わせて揺れながら、チェシャ猫はいつものにんまり笑いで考えた。 (僕と、共にありたいと願ってくれている?) アリス。君が、そう望んでくれるのなら。 (…僕の、アリス。君が、望むなら。) いつまでだって、ずっと君とともにあるよ。 僕は、君の猫だから。 ---------------------------------------------------------------- BACK |