星に願いを、





「アリス、七夕ってなんだい」
「………また唐突ね。全く、どこで聞いてきたんだか」
ちょこん、とベッドの隅に置かれたままのチェシャ猫が、再び言う。
「願い事がどうの、って言ってたよ。アリスも願うのかい?」
「願い事……。」
昼間、居間のテレビの音でも聞いていたのだろうか。端的だが明確なチェシャ猫の言葉に、亜莉子はふむ、と考え込んで空を見上げた。
「…七夕、ってね、神話で、織姫と彦星が年に一度だけ会える日のことなんだけど。その日に笹に短冊つけると、願いが叶うって言われてるのよ」
そう。年に一度の、逢瀬の日に。
二人っきりで楽しみたいだろうに、わんさか願い事が届いてしまうわけだ。
「アリスは?」
「え?」
「アリスは何を望むんだい?」
「私…は……」

私は。

「…………ないよ。願い事。もう、十分」
すっ、とチェシャ猫の首を持ち上げ、カラカラと窓を開けベランダへ出る。
「だから、二人っきりで楽しませてあげよーよ。」
チェシャ猫の首を抱え、一緒に空を見上げれば、満天とはいかずとも綺麗な星空が広がっていた。
「…僕らはいつも一緒だから、願う必要もないね」
「え?」
一瞬きょとんとしてから、ふっと笑みをこぼす。
「…………そうだね。」

星に願いをかけずとも、腕の中にぬくもりを感じて、そうしていられるだけで。…幸せ。




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